貰い物
ああ、神様というやつが居るなら助けてくれ。「自分の運命は自分で切り開かないでどうする。神頼みなんてもっての外」と常日頃自分のポリシーとしていたが、今日ばかりは祈らずにはいられない。
そんな心の奥底からの望みはどうやら古今東西どの神にも届かなかったらしい。
「にゃーご」
止めてくれ、小首を傾げるのは止めてくれ。お前は猫だ、犬じゃない。ビクター犬の真似事をするんじゃない。せっかく祈ったというのに、八百万の神はやはり当てになどならないのだ。
DVD鑑賞の趣味のために買ったソファー。背もたれの部分がすっぽりと体全体を覆うデザイン。このようなデザインは珍しく、それなりに値段も高かった。二人掛けなのはけして猫と同席する為じゃない。大人な女性を侍らすためだ。
それなのに此奴ときたらソファーの中心に座っていやがる。
そもそも、俺は猫など飼いたくなかった。そんなつもりではなかった。犯罪者が犯行を否認するかのような言葉ばかり浮かぶ。が、事実そうなのだから仕方が無い。このソファーで数日前まで一緒に座って居た女が動物好きだったから、気を引くために飼い出したのだ。犬ではなく猫を選んだのはただただ、散歩に毎日連れ出す気力が何処をどう叩いても無かっただけで、けしてその猫なで声にやられたわけでは無い。
「……にゃぁ?」
ああ、また鳴いている。そんなに無心に鳴くんじゃない。俺はけしてお前に屈したりはしない。
どうせならこの家を出て行く時一緒に此奴も連れて行って欲しかった。もはや過去の人となったショートカット女にそう毒づく。出て行って数日だ、まだその姿はしっかりと思い描けた。
はずだった。
ぼんやりと姿が滲んだ。滲んでいるのは背景だと気づくのにどれだけかかっただろう。俺は泣いてない。鳴いているのは猫だ。
「にゃお」
ソファに座っていたアイツがいつの間にか側に居た。
鳴いているのは猫で、俺は泣いてない。