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見習い薬師《くすし》の災難

亜麻色の髪の少女の前で、いかつい大男が、その体をできるだけ小さくしようと無駄な努力をしながら、正座をしていた。

「なんで、リザードマン用の傷薬くすりを、勝手にもっていったのかしら?

そもそもわたしの戸棚を勝手にあさるなんて、いい度胸をしているわね」

 碧い瞳が絶対零度のまなざしで、大男を見下ろす。

「なんとか言ったらどうなの?」

 腕組みをして見下ろすのは、ロンバール一族の族長の養女ムスメであるサーラ。見下ろされているのは、つい先日、傭兵団に加わったばかりの大男。巨大なハルバートを駆使して戦う怖いもの知らずな彼だが、目の前に立っている華奢な美少女から発せられる冷気に完全に飲まれてしまっている。

「よくもまあ。サーラの薬戸棚をあさるなんて考えたな。どんな自殺志願者かと思えば、てめえかよ。ハージム」

 離れた場所で、のんきに香草茶をすすりながらそう口を挟んできたのは、彼女の従兄にあたるカル。

「お知り合い、ですか?」

 新入りの薬師くすし見習いの問いかけに、カルはカップを下においてうなずいた。

「あいつは、なにをとち狂ったのか、サーラを自分の嫁にしたいと伯父貴に言ってきたんだよ、先だっての小競り合いのあとに」

「まあ、サーラ先輩は黙って立っていれば絶世の美少女ですからね。見た目だけなら」

「そこ。何か言った?」

 サーラの視線が、見習いの少年に向けられる。

「イエナニモ」

 思わず、直立不動になって棒読みで答える新入りを、生ぬるいまなざしで見つめるカル。この後輩が口走ったように、あの従妹は見た目ならそこいらの御貴族様の御令嬢にだってひけはとらない。あと、数年もすれば光り輝くような絶世の美女となるだろう。ただ。中身はそうそう変わらないだろうが。

「あいつとサーラが夫婦になるなんて、ありえねーんだ」

「何故ですか? まあ、見た眼から不釣り合いですし、年齢としも少しばかり離れすぎているようですが」

「あいつ、以前、サーラの薬草畑を荒らしてるんだよ」

「な、なんて命知らずな!」 

 薬師にとって、薬草畑は飯の種であり、誇りでもある。そこを荒らすなど、「恥知らず」と言われても過言ではないが、そこがサーラの畑となると、「恥知らず」から「命知らず」になってしまう。

「あのヒト、そんなに人体実験の被験者になりたいんですか」

「本人はサーラの気を引きたかった、そうなんだ」

「アホですか。自殺志願なのは結構ですがね、何もそんな手の込んだ方法で死のうなんて考えないで欲しいですね。一体、何処の世界に。自分が管理している畑を荒らされて喜ぶ人間が存在するんですか。死にたいなら、戦場で華々しく散るなり、そこらの崖から飛び降りるなりすればいいんです。他人ひと様に迷惑かけてまで自殺なんぞするもんじゃないですよ」

「まったくだ。それ以来。サーラはあいつを視界に入れるのも嫌がっている」

「じゃ。今回のお説教って、むしろ、ご褒美なんじゃないですか」

「それがそうでもない」

 カルの言葉に、新人は理解できないといった表情を浮かべる。

「叱られるのは嫌、なんだとよ」

「じゃあなんだってサーラ先輩の戸棚を荒らしたんです? 嫌がらせをしたかったんですか? それとも。自分で治療しようとでも?」

「さあなあ。どっちにしたって、リザードマン用の傷薬。作り足しとかないと。そろそろ在庫が切れるころ合いだからな」

「自分にも作れますか?」

「ちょっとまだ、無理だな。あれはサーラが作っている内服液だからな」

「傷薬、ですよね!?」

 思わず大声で突っ込む新人である。

「またわけのわからないシロモノを…」

「そこ。何か言った?」

「イエナニモ」 

 サーラにじろりとにらまれ、再び直立不動で答える見習いであった。

「…なんで聞こえるんでしょうか」

「悪口ってのは、そんなもんだ」

 サーラと彼らは、同じ室内にいるとはいえ、その部屋はかなり広い。ので。当然離れた場所で、そう大きくもない声で会話している少年の声がかなりの勢いでお説教をくらわしているサーラの耳に、本来なら届くはずはないのだが。先程から、彼女に関しての単語を聞きとがめては、こちらに冷え切った碧い双眸を向けてくるのだ。少年にとって、心臓に悪いことこの上ないのであった。












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