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ボーイ・ミーツ・ア・ガール

 その日。市はいつものようににぎわっていた。

「じい、ここはすごいにぎわいだな」

 栗色の瞳を好奇心に輝かせた少年は、周囲をきょろきょろ見回していた。

「あれはなんだ」

「あれは干したリンゴですな。日持ちがするように、干しているのですよ」

「あっちはなんだ」

「あれは、珍しい。東の国の武器ですな」

 付き従っている老人の言葉に、少年の瞳はさらに輝きを増す。

「父上のお持ちになっている短剣とは、全く違う。飾りも何もないが、刃の美しいことは比べ物にならない」

「まったくですな」

 少年は、ひとつうなずくと、その短剣を購入する。



  ドンッ


「あ、ごめんなさい」

「いや、こちらもすまない」

 人ごみに押されたのか、ぶつかってきたのは、少年とそう変わらない年頃の少女だった。

「大丈夫か。色々と買い込んでいるようだが」

 ぶつかったはずみに籠からとびだした薬草とおぼしき乾燥させた植物の束をうまいこと受け止めた少年は、ぶつけたのだろう、鼻の頭をさすっている少女にその束を差し出す。

「大丈夫」

「それは、商品か? それとも、顔か?」

「両方」

 そう言いつつ、少女は顔を上げた。

 美しい少女だった。辺境伯の嫡男として、王宮にあがったこともある少年だが、目の前にいる少女の美貌は、王宮にいた貴婦人方のそれを余裕でうわまっている。

「ありがとう。でもこれ、買ったものじゃないの。売り物なのよ」

「これらが?」

「そう。これでも、わたし、薬師くすしの卵なのよ」

 そう言って、露草色の瞳の美少女はにっこりと笑う。

「すごいな。薬師の卵ってことは、魔術も使えるんだな」

「うん、一応、ね。でも、お師匠様には『魔術のコントロールがなってない』ってよく言われてる」

「そうなのか? でも。つかえない人間からすれば、使えるだけでもすごいぞ」

「そう? わたしの周囲、結構使える人間ひ とがいるから、感覚麻痺しちゃってるのね」

「周囲に使用できる人間が結構いるって、いったい、どこの学校なんだ」

「あら違うわ」

 少年の感想に、少女――――サーラは、にっこりと笑う。

「わたし、ロンバール一族の人間なの」

 その言葉に、少年は思いっきり納得する。

「ああ。あの一族の」

 あの一族は(勿論比喩的な意味でだが)人間離れした存在が多いのだ。それこそ、滅多にいないはずの魔力保有者が周囲にごろごろ転がっていたって、全く不思議ではない。

「わたしはサーラ。あなたは?」

「わたしはマリウスだ。よろしく、サーラ」

 差し出された手を、ごく自然に握り返す。自分よりはるかに小さくてやわらかい手だが、薬師の卵だと言ったとおり、指先が緑色にうっすら染まっている。

「若ー!」

「じい、こっちだ!」

 人ごみではぐれた付き添いの老人の声に、マリウスは声をはりあげる。

「若、お捜ししましたぞ……っサラディナーサ様!!!」

 老人の大声に、サーラの露草色の瞳が真ん丸くなった。

「おじいさん、どうしてわたしの名前を知っているの?」

「サーラ?」

「『サーラ』は、愛称。わたしの名前、『サラディナーサ』って言うの」

「随分と高貴な名前だな」

「赤ちゃんの時に拾われたのだけど、着せられてた産着にそう刺繍してあったんですって。でも、呼びにくいから『サーラ』って呼ばれているの」

「なるほど」

「おじいさん。わたしのことをご存知なんですか?」

 老人は、サーラの言葉に首を振った。

「わしが存じ上げているのは、あなたさまによく似ておられた御方です。その方は、とうにお亡くなりになられておられているはず。この年寄りの勘違いです。第一、ご存命でも、年齢があいませんでな」

 そう言って、老人は深々と頭をあげるのであった。 


 辺境伯の嫡男マリウスと、ロンバール一族の族長の養女サラディナーサ。このふたりの出逢いが、王国に嵐を巻き起こすことになろうとは、この時点で誰一人として気付くものはいなかったのである。




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