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逃走
「ゲホ、ゲホッ……。な、何てことするのよ!?」
俺の肩をパンチしながら毒づくリタに謝罪をしつつも、俺は足を止める訳にはいかなかった。
そろそろ兵士達も回復してくるはずだが、一向に追ってくる様子はない。
気になって俺は後ろを振り返ると
「「「「うをおォおお!!」」」」
村の皆が店内に集団で押し入り、兵士を食い止めていた。
「行って下せえ、勇者様!!」
「リタをお願いします!!」
皆必死に騎士たちをその場に留めながら、叫んでいた。
「皆……」
俺はもう走り続けることはできそうもなかった。このままだと、村の皆に迷惑をかけることになる。
「立ち止まるな!!」
だが、足を止めかけた俺の手を引いて、リタは俺の先を走り出した。
「―――おい、何すんだ。あのままじゃ皆……」
そこまで言いかけて、俺は言うべき言葉を失った。
冷たい感触が、不意に頬をついた。
それは前を走るリタが流したものだった。