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ニートの俺が、異世界唯一の料理人!?  作者: 淡井ハナ
第一章 始まりはマーボー豆腐
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引けないとき

 夏の日差しが容赦ない。俺はリックスの実(もといニンニク)が大量に入ったカゴを担ぎ、汗だくになりながら何とか村にたどり着いた。

 

 今日は強火を使う料理は無しだな、と思いマーボー中毒者の村人たちをどう説得しようかとあれこれ考えて、ふと入口に目をやると、リタが村の様子をコソコソと窺っているのに気付いた。


 何やってんだ、あいつ。

 どうみても不審人物です。


「…何やってんの?」

「ひゃっ!!」


 肩を叩いただけなのだが、リタは変な声を上げ、大げさに飛びのいた。


「び、びっくりさせないでよ!」


 声を殺しつつもやっぱりその眼光は鋭い。


「で、何見てたんだ?」

「あれよ、あれ。たぶん、国王軍の人たちだと思う」


 リタが指差す一団は、何かRPGで良く見るような甲冑に身を包んだ兵士達だった。


「な、何だって。そんな、まさか」

「どうしたの、シュート? まさか、何か心当たりでもあるの?」

「あいつら、このクソ暑いのに、全身鎧とか……。変態か!?」

「……いや、確かにそうだけど! 大事なのはそこじゃないでしょ!」


 リタは俺の肩に平手打ちを入れた。いや、劇的に痛いぞ! 俺、防御力1なんだってばよ! ヒットポイントがかなり削られた。


「どうしてこんな村にまでわざわざ……」

「というかどうやってここまで来たんだ? この村ってあの山を通る以外に道はないんだろ。でも俺達、あいつらに会わなかったよな?」

「……きっと、うわさに聞くドラグーンよ」

「……騎乗兵ドラグーン? 確か、マスケット銃を装備して馬に乗る兵士って、ネットで見たことあるな。 でも馬なんてどこにも――」


 俺が辺りを見回していると再び強烈な突っ込みが入った。もう俺のライフ、0に近いんスけど……。


「だから、竜騎兵ドラグーンって言ったら、ドラゴンに乗って空から来たに決まってるでしょ!」

「どっどどっどっドラゴン!? マジかよ……」


 さすが異世界。何でもアリだ……。


「そこに誰かいるのか?」


と、連中の一人が俺達に目ざとく気が付いてしまった。


「ちょっ…。気付かれたじゃない! シュートが大声出すから!」

「……いや、でかい声出してたの、主にリタさんですよね……」


 俺が冷静に返すも、リタが何か文句でもあるの!? と言わんばかりのオーラを醸し出していたので、それ以上は言わなかった。


「……君! 見たことのない恰好だな。さては、君が噂の“奇跡の御業みわざ”の担い手か」


 ガシャン、ガシャンと物騒な音を立てながらこちらに来たその男はジロジロと無遠慮な視線で俺を見る。


 ここでビビってしまったら負けだ。俺は負けじと男をガン見した。


~~~~~~~~~~~~~~

ドラグーンA

性別:男

職業:国王軍 竜騎兵


<ステータス>

人としてのレベル:40

攻撃力:351

防御力:299

魔力:410

器用さ:170

回避:780


<特記事項>

真夏のフルアーマーは勘弁してほしいと竜騎兵団長にいつも嘆願している、竜騎兵組合の執行委員長兼兵長。


現在、水虫に悩んでいる。

~~~~~~~~~~~~~~


「……(あ、やっぱ暑かったのね)」


 それはともかく、目の前の男に逆らって、万が一戦いになった場合、まず俺に勝ち目はない。何せこいつのレベル、俺の80倍もあるんです……。


「そう敵意をむき出しにするな。我々は確かに君を探していた。しかし、何も今すぐ貴君に危害を加えようという訳ではないぞ」


 竜騎兵Aさんは、敵意の無さをアピールでもしているのか、両手を開いてプラプラと振った。だが、その度に腰のマスケット銃ががちゃがちゃと音を立てているため、説得力に欠けていた。


「じ、じゃあ。あなたたちはシュートに何の用なの?」


 完全に委縮してしまった俺を押しのけて、リタは真っ直ぐに竜騎兵に立ち向かう。


「我々はある一つの情報を掴んでね。ある日突然、奇妙な服をまとった少年が現れ、“りょーり”なる見たこともない食べ物で、人心を瞬く間に掌握しょうあくした、と」


 男はチラリと俺の顔を見た。俺は、それだけでぴくりとも動けなくなってしまう。


 男はふう、とため息を漏らしてリタに向き直り、続けた。


「その少年は、奇跡を起こして人々を救う伝説の勇者か。もしくは悪魔の業で人々に災いをもたらす魔王の手下か。我々はそれを見極めにきたのだよ」


 鋭い視線でリタを射抜く男。だが、リタは臆することなく


「秀人が魔王の手下の訳ないじゃない。どう見ても、ただのヘタレな人間でしょ!!」

「……いや、そんなはっきり言わなくても」

「いや、見た目は関係ない。確かに魔王軍の兵、すなわち魔物は異形の姿である者が多い。が、人間と見分けがつかない者もいる。それに、今代の魔王はかつては人間、それも先代魔王を打倒した元勇者だ。魔王軍は、人間のことを知り尽くしているだろう。当然部下に人間を擬態させることもたやすい筈だ」


 やはり男は一切ひるむことなく、リタが反論する隙を与えない。

 リタは悔しげに拳を握り、震えている。気のせいか、あのリタが涙を滲ませている?


「……だ、だったら」

「……ん?」


 俺はリタの隣に立って、男に言葉をぶつける。直接目を見ることが出来ないヘタレな俺。


……カッコ悪い。でも


「だったら、あんたが、その目で、舌で、確かめてみれば良い。俺の作る料理を!!」


 俺の料理にだけは、ケチをつけられることは許せない!


 騒ぎを聞きつけて他の竜騎兵たちも駆け寄ってくるも、目の前の男が片手を上げて制する。


「良いだろう。私の目で君を、そして君の出す“りょーり”とやらを見て判断しよう」


 そう言って、男はここに来て初めて、挑発的ではあるが本当の意味で笑った。


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