マーボー祭りの後は
食堂は店じまい。すっかり人がいなくなった店で一人洗い物をしていると、何となく寂しくなってくる。
ふと、鍋にたまった水に自分の顔が映っているのに気がつく。
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小森田 秀人
性別:男
職業:限りなくニートに近い高校生
<ステータス>
人としてのレベル:0.5
攻撃力:1
防御力:1
魔力:0
器用さ:1000
回避:1000
頑なさ:10000
<ユニークスキル>
「魂の縛り手(マスターオブクッキング)」
食べた相手の胃袋を掴んでその魂ごと縛ってしまう、絶対の料理技能。
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何故か俺に備わった力。目を凝らして相手の顔を見ると、その人の潜在能力、要するにステータスが数値として見えるのだ。
(余談だが、リタのスリーサイズを調べようとこの能力でガン見してたら、思いっきり殴られた……)
この異世界の一般的な人のステータスが、大体平均10くらいで、魔力だけは皆100くらいある。
「何で俺の攻撃力と防御力、1しかねーんだよ…役立たず丸出しじゃね? しかも人としてのレベル、小数点……」
あれか? 力もなければ打たれ弱いヘタレで、回避1000は嫌な事から逃げる力がすごいってことか。つーか頑なさ10000ってどういうことだよ!?
しかし、この村の大体の人を見ているが、ユニークスキルを持つ人間は一人もいなかった。
やはり、俺だけが持ってる力。いよいよ俺無双が始まるのか!?
とかなんとか調子に乗っていると、手が滑って皿を一つ落として割ってしまった。
俺のために、わざわざ特注してもらった品だけに、申し訳なくなってしまう。
「はあ、バカなこと考えてないでとっとと終わらせよう」
あれこれ考えることを止め、俺は作業に戻った。
「にしても、村人たちがあんな狂気じみた態度で俺のマーボー豆腐を食ってる。もしあいつらがこの世界に来たらビビるだろうな」
俺はネット越しの友達を、懐かしむように思いをはせていた。
そう。俺は日本に生まれ、ごく普通の生活を送っていた高校生だ。通信制の高校に入り、引きこもり生活を満喫し、いよいよ野望を実現すべく(専業主夫になること!)、具体的な計画を立てて日々を過ごしていたのに……。
気が付くとこんなわけのわからない異世界に飛ばされていた。
祠のような場所で気が付いた時には、俺を召喚した奴はどこにもいなくて、目の前には女の子っぽいかわいい字で「異世界人のあなたを召喚した者です。どうか、この世界を救ってください。よろしく」と書いてあるメモが置かれているだけ。
適当か!?
そんな、当てのない俺を村まで案内してくれたのがこの村の村長の娘、リタだった。
もしリタが居なければ、俺はどうなっていたか。その意味ではリタにはいくら感謝してもしたりないんだが…。何を勘違いしたのか、あいつのせいで村人たちには俺が伝説の勇者だって勘違いされたままだ。
俺、どうしたら良いんだ?
月明かりと点在するランプだけが頼りの夜を迎えた村。
食堂休憩室兼俺の自室へと戻る途中に響く、聞いたこともない虫の音。
ほの暗い明かりだけが頼りの帰りのこんな夜は、いつも漠然とした不安に襲われる。