動き始めた物語
材料集めはどうしようか、一瞬迷ったが、すぐに村長が手配してくれた。
村長はこの世界にはないだろうな、と俺が思っていた豆板醤や甜麺醤も難なく手に入れてくれた。
どうやらこの世界では豆板醤も甜麺醤も、それぞれの果物を搾ってそれを瓶詰した物らしい。
「豆板醤が果汁って、どんな果物なんだ……?」
そこはそってしておくことにした。
さらには、俺のいた世界で言うところのトウチ(黒大豆を発酵させたもの)と味、質感がそっくりなものまであった。
これがあるだけで味に大分差が出るので、助かった。
村長、グッジョブ!!
また、村の調理場は一晩でちょっとした食堂に改装されてしまった。
何でも一晩でやってくれる人たちだな……。
でも、俺のためにここまでしてくれたんだ。
プレッシャーを強烈に感じ、胃が痛くなって逃げることも一瞬頭をよぎったが、 俺は村長の期待に応えるべく気合を入れてマーボー豆腐を作った。
何日か試行錯誤を重ね、リタの協力も得ながら村の人の口に合う味に調整して、遂に完成にこぎつけた。
そしていよいよ村人に食べてもらう時が来た。
最初、目の前の料理に恐る恐るの村人たちだったが、一口口に含むと驚愕に目を見開き、汗を流しながら手を休めることなくマーボーを掻き込むのだった。
そして始まった勇者コールと俺の胴上げ。一生のうちで、胴上げされることがあるなんて、夢にも思っていなかったな。
その日以来、俺はずっとマーボーを作ることになった。
村人のテンションは確かにちょっと引くほど高かったが、それほどまで俺の料理
喜んで食べてくれると、やっぱり嬉しい。
この日、俺は封印していた日記帳を開いて、日記をつけることを再開した。