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ニートの俺が、異世界唯一の料理人!?  作者: 淡井ハナ
第0章 始まりの物語
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まるで奇蹟が起こったような

「……な、なんと! 口当たりの滑らかさとは裏腹に何と濃厚な味か。さらには小さく切ってあるレッドペッパーが程よい辛味で味を引き立てている。こんなものは未だかつてなかった。あの不味いスパスがこれほど芳醇な香りと味になるとは……」


 村長は感動しているのか、目を閉じたまま唸っている。


 つーか、スパスってのは確かパスタの事だったな。やっぱり村人にとっても、素パスタは不味かったんだな……。


「カプリジュースにリックス、それとスパスを組み合わせたのですか……。信じられない。数種の食べ物を組み合わせ、全く未知の食べ物を創りだすなど聞いたこがない。まさに奇跡の魔術です!」

「え? いや、これ奇跡とか魔術とかじゃなくて……」

「やっぱりシュートは伝説の勇者様だよね!」


 俺が反論しようとしたところに、リタが言葉を重ねた。


「いや、だから……」

「『万物を自在に操り、奇跡に変える』か。まさしくこれは奇跡の御業……」


 いや、聞けよ!


「それに何というか、体が軽くなり力がみなぎるようです。これを奇跡と言わず何というのか」


 あまりの盛り上がり様に、口を挟むのが躊躇われる。

 ちょっと怖いんだけど。


 すると、村長は黙りこくってなにやら思案しだした。


 俺は小声でリタに抗議する。


「なあ。何で俺が勇者だっていう方向に話を持ってくんだよ? さっきリタも違うって認めてただろ」

「だって、お父さんが、もしシュートが勇者じゃないのなら、皆に嘘ついて惑わしたとがで国王軍に通報するっていうんだもん。シュートが村に居られるようにするには、こうするしかないでしょ」


「な、つ、通報!?」


 何時の間にそんなヤバい話になってたんだよ。

 勝手に話をデカくしといて通報とか、ヒドすぎる。俺は何も言ってないのに……。


「勇者様!」

「は、はい! ……って俺の事?」


 村長がいきなり俺の手を取って身を乗り出してきた。

 何だいきなり。俺はそっち系の趣味はないぞ!!


「ぜひ村の皆にも、これを振る舞ってはいただけないでしょうか?」

「は、はあ。えっと……え?」


 いきなり何を言い出すんだ。


 俺の表情から察したのか、村長は事情を話しだした。


「幸いこの辺りにはまだ魔族たちの手は伸びておりません。しかし魔族侵攻の報せはよく耳にしましてな。村の者はいつこの村も侵攻されるかと怯えておるのです。良いニュースも久しく聞かないなか、勇者様の作るこの食べ物はきっと! 皆に活力を与えるに違いありません」


 どうかお願いできませんか、と頭を下げる。


「私からもお願い! きっと皆喜ぶよ!」


 とリタも村長にならった。


 おい。これ拒否れる空気じゃないんだけど……。

 くっ、まあボロいとはいえ小屋を貸してもらってる恩もある。

 断りたいが、この空気のなか言いだすのもあれだし。でもそんな大役俺に勤まるわけないし。でも何て言って断るのか、うまくできる自信はないし。

でも変に目立ちたくはないし。


「分かりました。やってみますよ……」


 結局、断り方がわからずに、しぶしぶ承諾する。


「本当ですか!? ありがとうございます! では早速村の中心にある調理場を改装させましょう。皆の憩いの場として、酒場のようなテーブル席を設け、更に火口を増やしておきましょう」

「え、いや、そこまでやんなくても……」

「忙しくなるわね!」


 俺と真逆のテンションのリタは俺の肩を叩き、嬉しそうに言った。


 ヤバい。何かもう引くに引けなくなってしまっている。


 もともと、俺はそんなにペペロンチーノは得意じゃない。もし失敗でもしたら……。


「な、なあ村長。実は俺の得意料理はこれじゃないんだ。実はこれを遥かに上回る料理があるんだが……そっちを作っても良い?」


 恐る恐る提案してみると、村長はかっと目を見開いて


「な、なんと。これを上回るとは。是非そちらを作っていただきたい!」


 村長は一も二もなく承諾した。


 それからもう一つ。俺はリタに向き直り


「次に俺が作る料理は、火加減が非常に重要なんだ。そこで! 火の魔術を持つリタの手を、是非借りたいんだが……?」


 言葉を選んで慎重に言ってみた。


「…………」


 な、何で黙るんだよ。もしかして何か気に障るような事言ってしまったとか?

 非常に気まずい。急に厚かましすぎたか?


「あ、あの。嫌なら別に――」

「……やる! 私やるよ!」


 まるで真っ暗闇で突然電気をつけたようにパッと明るくなったようだ。

 そんな錯覚をする程、リタは嬉しそうに声を上げた。


 なんという光。パソコンのモニター以上の光は眩しすぎて目がくらむ。


 思わず一歩引いてしまう。


 だが、これでリタをこちら側に引きこんだ。

 リタの村人からの慕われようを見るに、万が一失敗してもリタが関わっていることにより、そうひどい事にはならない筈だ。


 クハハハハ、俺ってマジ策士!


 何て考えていると、リタはニッと笑って手の平をこちらに向けて顔の横に上げた。


 な、何だそれ? もしかして、リア充専用儀式『ハイタッチ』ってやつか。


 中学の時に、皆でハイタッチを決める中俺も勇気を出して輪に加わろうとして、俺の番が来たところで華麗にスルーされた苦い記憶がよみがえる。


 上げた手の持っていきどころのないあの感じ。切な過ぎるから!


 ハイタッチなのか? 

 ギリギリで避けたりしないか? 

 俺がタッチしても後で拭ったりしないか?


 恐る恐るリタに近づいて


「よ、よろしく」


 リタと同じように手を上げてみた。


「一緒にすごいの、作ろう、ね!」


 と、リタが駆け寄り俺の手を叩いた。


 小気味よい音が鳴り、手のひらがじーんと痺れた。


 俺は暫くその手のひらを見つめた。


「……仕方ない。やるからにはとことんだ!」


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