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ニートの俺が、異世界唯一の料理人!?  作者: 淡井ハナ
第0章 始まりの物語
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シュートの日記帳(前半ページ)

7月19日(土)晴


 とりあえず、日記をつけることにしました。このドーン村で、俺はリタという女の子とその父親である村長にお世話になっています。


 リタに日付を聞くと、今日は7月19日だそうです。曜日の数え方は俺が居た世界と同じで、1週間は日曜から土曜の7日。1年は365日です。


 昨日は疲れていたのか、あれからすぐに眠りこけてしまったので、後で食事を持って来てくれたリタは、結局引き返すことになってしまったそうです。

リタは「気にしないでください」と笑ってくれて、俺はほっとしました。


 そんなリタが持って来てくれた朝ごはん。

 この世界に飛ばされて一発目の食事は、焼きニンニクです。


「これはリックスの実って言って、この村ではほとんど毎日食べてますね~」


 まず驚くのがその大きさだ。俺の世界のニンニクに比べて2倍くらいあるのではないだろうか。


 いきなりニンニクがぼーんと出て来たので、意表を突かれましたが、焼いたニンニクはほくほくとしててまるでジャガイモのようで、これはこれでアリです。


 ゴチです!!


 思いのほか腹が一杯になりました。さすがに常食しているというだけあります。


 食後、少し村の様子を見がてら散歩することにしました。

 家の中に居ても、パソコンもゲーム機もないため、することが無く、嫌な事ばかりが頭をよぎるのです。


 俺の事は既に村中の噂になっているらしく、会う人会う人が俺を勇者様と呼んできます。


 いくら否定しても、彼らは「またまた~」とか言って聞いてくれません。

 俺が何を言っても言わなくても、彼らは勝手に話をでかくして、盛り上がるのです。


 こんなことなら、言葉を話せないふりでもしておけばよかったかもしれない。

 そうすれば、ずっとだまっていられたのに。今思うと残念だ。


 昼ご飯には皿に大量に盛られたスライスニンニクが出ました。


 …………ゴチです。


 その後は特にすることもなく、ぼーっとしていました。


 夕ご飯には生のニンニクと生の長ネギが出ました。

 俺は持って来てくれたリタの表情を観察しましたが、リタは笑っていてその胸中までは読めません。


 ごちそうさまでした。


7月20日(日)晴


 良い天気です。腹が減っていたためか、早起きをしてしまった。


 朝ごはんはパンとミルク。ようやく朝ごはんらしいものが来た!


 ……すっぱい。どうしてパンがすっぱいんだ。

 ミルクはウマイが、パンはヒドイ。


 この日、リタはごはんと一緒に着替えを持って来てくれた。

 俺の服装は目立ちすぎるということで、村人と同じ服を一式くれたのだ。

 

 洗濯などもやってくれるということだったが、それは恥ずいので辞退した。

 俺は洗濯も得意だし、それは俺のプライドが許さなかったというのもある。


 食後、特にやることもなかったので、村人に見つからないよう外に出てみた。


 ……捕まった。


 また俺が勇者うんぬんというので、思い切って俺は告白した。


「俺は学校にも行かず、家にずっと引きこもってたんだよ!」

「へあ~、静かな部屋で瞑想を重ねて精神修行に励んでたんだな~。オラが若い頃はそんな立派な事はしてなかったでよ。ほんに勇者様は立派だや~」


 何故そうなる。確かに俺は部屋でよく瞑想、いや妄想をして、その後賢者になってはいましたが、それは修行ではありません。


 俺の話を聞いてくれよ。俺は涙を隠してその場を去りました。


 昼ごはんはすりおろしたニンニクと、長ネギでした。


 実は俺は村の皆に嫌われているのだろうか。


 リタの笑顔からはそれはうかがい知ることはできなかった。


 食後、特にすることがなかったので、村の外れにあるという山へと足を運んだ。

 そこで作業をしているリタを見つけ、思い切って声を掛けてみた。


「シュートさん、こんにちは!」


 リタは笑顔で俺の名を呼んだ。やはりその笑顔には裏がないように思える。


 リタの作業の手伝いを申し出た俺。リタは初め遠慮したが、


「それじゃあ、お願いしますね」


 と言って、作業の内容を教えてくれた。


 この異世界ではニンニクはリックスという木に実る果実らしくて、それを採取するという。


 実を集める事自体はさほど難しい作業でもなく、すぐに渡されたかごはいっぱいになった。


 俺は嫌な予感がしたので、思い切ってリタに晩ご飯のメニューを聞いてみた。


「え、晩ご飯ですか。……えっと、リックスの実を揚げたものです。採れたてですので、楽しみですね!」


 何の迷いもない笑顔。俺は同意する意味で笑い返した。


 本当に夜ご飯にはニンニクを揚げたものがぼーんと大量に出た。


7月21日(月)晴


 午前中は平和だ。男達は仕事に出るため、村が静かになるためだった。俺は朝ごはんの生ニンニクを手に、この世界で目覚めた場所、祠に行ってみた。


 別に何かを期待していたわけではないが、それでも何の手がかりもないと分かると、疲労感がどっと押し寄せた。


 だが、疲れて小屋へと戻った俺に、何とごちそうが出た。


 本日の昼ごはんはパスタだった。しかも村の名産の一つであるという豆腐まで付いてきた。


 ただし、素パスタ、プレーン豆腐だが……。しょうゆくらいかけてくれよ!


 もしかしてこれは、新手のいやがらせなのだろうか。


 そう思って俺はご飯を持って来てくれたリタの顔をじっと見つめると


「そんなにじっと見られると。……その、照れちゃいます~~!」


 などと、顔を手で覆い、走り去ってしまった。

 ……ちょっと萌えるじゃねェか。


 しかし、何だな。言っちゃあ悪いが、どうしてこう飯がマズいんだ。

 どう考えても悪気があるようには思えないのだが。


 俺は勇気を出して、村の人に話を聞くことにした。


 この村の家では、どこも鍵などはかけておらず、皆入口オープンでウェルカム状態だった。


 さすがにのどかな田舎村は違う。


 俺が無言で家に入っても、通報されるどころが逆に歓声を上げて接待してくれるなんて、まるでRPGの勇者にでもなった気分だ。

 もしかすると、ゲームよろしくタンスや金庫を漁ってもお咎めなしかもしれない。


 とにかく、今日のミッションで分かったことをまとめておく。


 まず、初日にオリーブを見たときに起こった現象が何なのか、何となくだが分かってきた。

 俺にはどうやら物や人に対して、ガン見することで対象の情報を文字として見通す能力が備わったらしい。


~~~~~~~~~~~~~~

マダム・フランコ

性別:女

職業:外灯整備・公示人


<ステータス>

人としてのレベル:23

攻撃力:23

防御力:114

魔力:118

器用さ:380

回避:21

情報伝達速度:光の速さ


<特記事項>

辺境の村ドーンに、城下町や隣町の最新トレンドや世界情勢をもたらす貴重な存在。顔が広く村の影の実力者である。

彼女に知らないことはないと言われており、噂を広める力は音速を超えると恐れられている。

~~~~~~~~~~~~~~


こんな感じである。

……マダム・フランコさん、パねえ!


 だが、この力は強力。相手のプライバシーを覗き放題だ。


 ただし、人間相手に使う時は相手の目を見なければならないのが残念だ。


 俺は目を合わせるのが苦手なんだよ!


 また、他にも色々なことを聞けたので、合わせてメモしておく。


①どこの家庭にも冷蔵庫などのハイテクな家電はない


②お茶受けとして素の豆腐と素のさつまいもを出していた。(各所で開かれていたおばさんたちの女子会がソース)


③俺が借りている小屋から3軒東隣に住んでいる、件のマダム・フランコさんが、隣町の老舗道具屋で“カラクシア”という豆腐にかける液体を隣町で購入したというニュースが村で今一番ホットな話題である。(もしかしてしょうゆの事? つーか、またマダム・フランコさんだよ!)


④カラクシアの面妖な味は村中で大不評を買っている。やはり余計な事はせず、素材の味をそのままいただくのが大事、とベルトル大おばさんなる人物がドヤ顔で語っていた


⑤さつまいもをもらった。久しぶりに、甘味を感じた。単にふかしたいもが、涙が出る程うまかった。


……⑤は関係なかったかもしれない。


 それにしても、今日は有意義な一日だった。

 ただ、今日はおばさんたちの女子会に参戦することになったしまって体力ライフが0だ。


 会話のスピード、声のトーン、話題の飛び具合、全てがラスボス級で、俺はずっと愛想笑いで誤魔化していたわけだが、頬の筋肉がりました。


 おかげで表情が笑い顔のまま固定されて、夕方リタに怪訝な顔をされた。


 ひょっとして、リタの個人情報を読み取れば、スリーサイズなどは分かるだろうか。


 勇気を出してリタの目を見つめてみた。


「やですよ! そんなに見つめないでください!」


 バシンと肩を叩かれた。

 その一撃は全力だったのか、これを書いている今でもまだジンジンする。

 くそ、失敗した失敗した失敗した!


 結局その後リタをスキャンするチャンスは訪れなかった。


 そしてやっぱりリタがもってきた夕飯はニンニク……。


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