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ニートの俺が、異世界唯一の料理人!?  作者: 淡井ハナ
第0章 始まりの物語
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モニターの向こう側、少女ひとり

 暗闇のなか、前も後ろも上も下も分からない世界で、体中の肉という肉をペンチで一つまみずつちぎり取られていく感覚。


 それがいつまでもいつまでも続き、ついには頭がおかしくなりそうになったころ、一気に視界が明るくなった。


 俺は、立っていた。まぶしさにまだ目が慣れないが、あれ、俺いつの間に外にだた……?

 

 ようやく明るさに順応してきた。そっと目を開く。

 

 目の前にあるのは、石の祠……?


「……??? は? えっと???」


 自分の身に起きたことが理解できない。周りを見渡すと一面の木、葉っぱ、土の地面。

 感じる空気感は今まで生きてきたなかで経験したことのないものだ。


「俺、部屋に籠ってたはずなんだけど……」


 ただ、どうやらこれは夢ではなさそうだ。そのことは、先ほどから感じている頭痛が教えてくれている。


 空気がクリア過ぎて、落ち着かない。

 何となく、高校のパンフレットで見た光景に似ている気がする。


 いつの間にか、俺は登校日を迎えていたのだろうか? 

 いや、あり得ない。俺があんなクソイベントに、携帯ゲーム機を持って来てない筈がない。

 

 俺のポケットにそれが入ってない以上、その線は消えた。


「……? 何だ、これ?」


 ふと見ると、足元には封筒が落ちていた。ご丁寧に一際大きな石で重石をして、風で飛ばされないようにしてある。


 石をどかして封筒を見てみると、『Dear Syuto K』と思いっきり書いてある。


小森田秀人オレ宛ってことか?」


 封はしてなかったので、便箋を取り出してみてみる。


 『私は異世界人のあなたを召喚した者です。訳あって、あなたをこの世界へお呼びしました。どうかあなたの力で、停滞したこの世界を救ってください よろしく』


「な、何だコレ?」


 筆跡の丸い感じがどことなく女っぽいが、それにしても何と適当な文章か。

投げやり感が半端ない。


 いや、待て。文章には続きがある。


「なお、この文章は自動的に消滅します L」

「ベタだ……ってウソだろ!?」


 何か便箋から不思議な煙がもうもうと上がってきた。


 思わず手を放すと、途端、便箋は真っ赤な炎に包まれて、燃えカスすら残さずに、本当に消滅した。


「何なんだ、これ……」


 しばし呆然とする。

 何か、いやに暑いな……。


 待てよ、そうだ。思い出した! 


 俺は、いつものように部屋でチャットしてたんだ。


 そしたら、知らないヤツがチャットルームに入って来て、変な事を言ってきて、モニターがものすごい光を放ったんだ。


 と思ったら俺はこの場所にいた。


「……え、何? 俺、まさかパソコンに取り込まれた、って事か?」


 しかも、あの手紙には俺をこの世界へ呼んだ、とか書いてあったよな……。


 何、もしかしてここ、いわゆる異世界って奴か……。

 俺、異世界に迷い込んだってことか?



「嘘、だ、ろ………はは」


 事態がうまく呑み込めないままだが、とりあえずここがどこなのか、それだけでも知りたい。


 俺は、不安な気持ちを我慢して歩き出した。


「………」


 柔らかい土の感触が不快だ。それに、そこらじゅうに落ちている緑色の葉っぱを踏みしめたときのカサっという音が気持ち悪いし、葉っぱから芋虫的なものが這い出してきそうでやっぱり気持ち悪い。


 少し歩いたところで、誰か人が居ることに気づいた。

 だが、あんなところにしゃがみこんで何をしてる?


 未知の土地で、しかも初対面の他人に話しかけるなんて、ハードルが高すぎて、いつもならハードルを避けて通るか、元来た道へ引き返すところだ。


 今はそうも言ってられないな、いやだけど、他にどうしようもないし、いやだけど。


 俺は恐る恐るその人物の所へ歩み寄ることにした。


「あ………………あ…………の」


 振り絞った声は、自分でもびっくりするほど掠れていた。


 人は長く他人と話していないと声の出し方を忘れるらしい。


 いや待て。こんな訳の分からない世界だ。言葉は通じるのか?


 もう一度声を出そうか、戸惑っていると、その人物は俺に気づいたらしく、立ち上がってこちらへ向き直った。


「…………」


「……え、っと」


 その人物は女だった。しかもショートカットが良く似合い、目鼻立ちがはっきりした、ぶっちゃけかなりの美少女だった。


 ただ服装が妙だ。まるでRPGの村人のような格好をしているが、コスプレか? 

ヲタには見えないんだが……。


 女は俺の姿を認めると、時が止まったように棒立ちになってしまった。


 俺と同じか、少し年上だろうか。


 それにしても、よりによって美少女とは。くそ、どうせ俺の事を空気扱いしてそのまま歩き去るんだろう。いや、いっそそうしてくれた方が良いのか、「キモっ」と吐き捨てるように言われながらゴミを見る目で見られた方が良いのか? 

 無視か罵倒かどっちだ!? でも、ショートカットが似合うってことは、こいつは本物の美人なんだろうな、すげえな。でもこの場合不細工な人の方が良かったのか、そうすれば困っている俺に親切に……。いやでも待て。ブスは心が綺麗です、なんて何かの本で見たが、あれは嘘だと俺は常々思っている。ブスは心もブスだ。なぜならば見た目にコンプレックスがあるため、引っ込み思案で、思ったことも言い出せずに青春を送る。その思いはやがて重く濁って腐り果て、心の奥底にヘドロのようにたまっていき、心全体を濁らせるからだ。その点、美人はどうだろう。やっぱり何をしても周りがチヤホヤしてくれるから調子に乗って心根が真っ黒なまま誰にも正されることなく成長してやっぱり性格ブスになるのか。どっちにしろ性格悪いじゃないか……。


 やっぱり女という存在は恐い。今のうちに心の準――


「あの」

「……え」


 不意に目の前の女が声を掛けてきた。無視するでもなく、罵るでもなく。


 想定していなかった可能性。真っ直ぐな瞳で見つめられ、俺は思わず目を逸らしてしまう。


ずい――


「うえっ――?」


 思わず変な声が出てしまった。女のせいだ。いきなり顔を思いっきり寄せて見つめられる。あまりの突然の出来事に、心臓が止まりそうだ。


 互いの息がかかりそうなほどの距離。俺は思わず息を止めてしまう。

 俺の絶対防衛ラインを軽々と超えて来るとは恐ろしい奴だ。


……って何でこいつ、何も言わないんだよ。


「やっぱり」

「え?」

「あなた、村の人じゃないですよね。どこから来たんです?」


 何故かきらきらと瞳を輝かせながら、食い気味に尋ねられる。


 その勢いに圧倒されて俺は一歩後退した。葉っぱを踏みしめた乾いた音が響く。


「……え、えっと。そこの祠? から、なんて、アハハ」


……あああヤバい! 何言ってんだ、俺。これじゃ通報されるレベルで不審者だ。


『美少女に、祠から来たなどと意味不明なことを言って声を掛ける事案が発生』

とかニュースに出てしまう。


 何とかうまく作り笑いをしようとするが、表情筋が引きつって、うまく行かない。


「……もしかして、ここがどこだか分からなくて、困ってたりしますか?」

「……!」


 どうして分かったんだ。目の前の女が心を読む怪物なんじゃないか、という思いがよぎる。


 いや、ここはもう賭けだ。ヘタに嘘をついて通報されでもしたら厄介すぎる。


 どうせ警察は俺のいう事なんぞ信じてくれないんだ。それに俺の低いコミュスキルだと、何らかの犯罪をでっち上げられかねん。ここは正直に……


 俺は女の質問に、思いっきり頷いてみた。

 

 すると女は、いっそう顔を輝かせて


「祠から来訪せし人間、異界の服、青白い肌。……間違いないわね」


 何やらブツブツと呟いている。どうやらいきなり邪険にするほど悪い人ではなさそうだ。


 俺は思い切って尋ねてみる。


「あの、す、みません。その、迷子が、俺、でして、ど、どどここで、です?」


 ……噛んでしまった。既にここ3年で他人と交わした総会話数を優に超えているせいで、既に俺のライフはゼロよ。何か、吐き気がしてきたし。


「だ、大丈夫ですか? この近くに私の村があります。ご案内しますね!」


 そう言って、女は俺の手を取ると、だっと走り出した。


「え、え~~~~?!」


 その力の強い事。俺は女に引っ張られるに任せて、必死に走るしかなかった。


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