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ニートの俺が、異世界唯一の料理人!?  作者: 淡井ハナ
第二章 新たな出会いにタコライスを
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歓迎の卵かけご飯

 朝、眠気眼ねむけまなこで部屋を出て階段を下りると、すでに二人は支度をしていた。


 リタは会うなり「昨日はごめん!」と本当にすまなそうに謝罪した。

 どうやらあの後、シオンが誤解を解いてくれたらしい。


 俺はシオンに礼を言おうと思って目を向けると


「――――!」


 思いっきり目が合ってしまい、シオンはまたも慌ててリタの影に隠れてしまう。


「ああ、シオンはすごく恥ずかしがり屋なの。許してあげてね」


 と、リタがシオンに代わって説明する。


「そういえば、まだちゃんと紹介してなかったわね。彼女はシオン・タイラー。私が小さい頃お父さんの用事で一緒にこの町、ロゼに付いて来てた時、よく一緒に遊んでもらってたの。私のお姉ちゃん、みたいなものかな?」

「シ、シオン・タイラーです。…道具屋をやっています、です。よ、よろしくお願いします」


 シオンはリタの後ろからちょこんと顔を出し、消え入るような声でそれだけ言った。


「ああ、えっと、よろしく。俺はシュートだ……ってお姉ちゃん!?」


 あまりの意外性につい上げてしまった大声に、シオンはビクッと肩を震わせる。


 まるで小動物のようだ。たしかにおっぱいはリタよりもお姉ちゃんしてるが、どう見ても俺よりも年下にしか見えないぞ。背もちっちゃいし。


「……シュート、何か変な想像してない?」


 今度は俺がビクッとする番だった。


「イエ、ナニモ」

「シオンは私の一つ年上よ。確かに人見知りなところはあるけど、すごく面倒見が良くて優しいんだから」


 リタはまるで自分のことのようにぷりぷりと立腹している。

 それを見て、シオンは曖昧に笑って


「そ、その。昨日は助けていただいて、本当にありがとうございました、です」


 ペコリと頭を下げた。人見知りしつつもこういう礼節に関してはしっかりしているらしい。


 それから少し、微妙な間があって、シオンは一つ深呼吸をした。

 それからリタになにやら耳打ちをし出した。


「……ええ。……うん。…ええ?! 良いの?」

「……?」


 何だ、二人で何を話してる? 何やら楽しそうな雰囲気だが。


 おいてけぼりの俺を置いて、二人は勝手に盛り上がっている。

 するとリタがくるっと俺の方へ向き直り


「シオンが、シュートにお礼がしたいから店に来てってさ!」


 とシオンをずいっと前に出す。当の本人は真っ赤になって俯いているが。


 こんなんで、社会に出てから大丈夫か? 俺が言うのも何だが、心配になってしまう人見知りっぷりだった。


 シオンの案内でたどり着いた店、しゃれた看板には“タイラー道具店”とある。石造りの建物が多いこの町にあってなお歴史を感じさせる建物だった。雰囲気があって、なかなかイイ感じだ。


 店内に入り、さっそく陳列ちんれつされた商品を見てみる。


 色とりどりの薬品に、何味か想像もつかないグミ類に、いかがわしい薬草類。

 俺は、薬草の一つを手に取り、目を凝らしてみた。


~~~~~~~~~~~~~~

チョッパーセージ

タイプ:道具

効果:攻撃力を5上げる

~~~~~~~~~~~~~~


「へえ、攻撃力を5も上げるのか。じゃあこれを70個使ったら、俺でもあの竜騎兵に勝てるな」


 そう思って、俺は何気なく値段を見てみた。


 ……後悔した。


「チョッパーセージは非常に貴重な薬草なんです。自国で独占するために、かつて二国間で戦争が起こった、なんて言われているくらいですよ!」


 とシオンがひょい、と俺の隣に立って、熱を込めて説明している。

 

 あれ、こいつこんなキャラだったか?

 それからもいろんな薬草やアイテムのことを熱っぽく語り始めた。その目は、好きなアニメを語るヲタの目を彷彿とさせる。


「……あ、あの、シオン?」


 突然の豹変ぶりに、心配そうにリタが声をかけると、シオンはピタリと解説を止めた。


「……」

「……」

「……!」


 それから俺の顔をチラリと見たかと思うと、両手で顔を覆って店を出て行ってしまった。


「……」

「……」


 店に残された俺とリタ。いや、どうすりゃ良いんだよ、これ。

 仕方がないので、シオンが戻ってくるまで待つことになった。


「そういえば、お腹減ったね~」


 リタはテーブルに突っ伏して、足をぶらぶらさせている。


「ああ、減ったな」


 気のない返事。

 対面に座った俺は、奥にあるキッチンを見ていた。 

 やはりこの町の人間も料理をしないのか、それほど設備は充実していない。しかしこの家庭的なキッチンを見ていると何かこう、主夫の血がうずうずしてくる。


「そういえばさ。シュート、昨日はすごい活躍だったね…」

「ん…? シオンの解毒をしたことか? あれは村長のくれたアイテムのおかげだって」

「うん。それもあるけど、魔物を2体も倒したじゃない! しかも魔術もなしに」


 リタは素直に賛辞の言葉をかけてきた。面と向かって褒められるのは慣れてない。何か体が熱くなってきた。


 「いや、あれはその、たまたまだって! それを言うならリタなんかまるで鬼神のごとき活躍だったな!」


 照れ隠しに俺もめ返しをしてみた。


「私は魔術があるから……ってだれが鬼神よ!?」


 逆効果だった。おかしいな。


「そ、そういえばさ結局シオンは何で俺たちをここに呼んだんだ?」

「ん? ああ。シオンね、この町にいる間ぜひここに泊ってって言ってくれたんだよ!」


 何とか誤魔化せたようだ。……って


「え、ここに?」


 確かに人二人増えても十分大丈夫なキャパはありそうだが


「でも、あいつの親は良いって言ってんの?」


 俺が言うと、リタは悲しそうな顔になった。


「あの子の両親は……」

「あ……」


 その表情で察してしまった。シオンの両親はもう、居ないのか。


「ちょっと、何考えてるの!? おじさんもおばさんも仕事の関係で王都に行ってるだけよ!」

「あ、そうなのか…」


 ほっとしてしまった。

 シオンのおじさん、おばさん。勝手に殺してしまってごめんなさい。


「ま、そういう訳で、今日はシオンがご馳走するんだって珍しく張り切ってたよ」

「……ん?」


 俺はその言葉に引っかかった。


「なあ、リタ。この町の人はお前の村の人と違って。…その、料理できるんだよな?」


 俺の言葉を聞いて、リタはむっとした顔になる。


「何言ってんの? “りょーり”なんて誰も出来ないってば! この町の人たちも私の村も同じよ!」

「……(がくり)」


 やはりそうか。村での悪夢がよみがえる。

 あの時みたいに、生のニンニク食わされたり唐辛子をそのままぽーんと出されるのか……。ここは何としても遠慮したいが、やっぱお礼といってくれるものを断るってのは、ヒドイことなのか? どうなのだろうか。


 それから待つこと1時間。恐る恐ると言った様子で店の扉を開け、シオンは戻ってきた。


 いい加減腹も減ってきた頃だ。

 これだけ空腹なら、何を出されてもきっと大丈夫の筈だ。俺は覚悟を決めた。


「すぐに、用意します、です」


 そう言ってシオンはキッチンに引っ込んだかと思うと、程なくして戻ってきた。


 手には茶碗が3つ並んだお盆。何やら黄色掛かった…ご飯?


「あ、ロゼの名物、『卵かけご飯』です」


 そう言っておずおずとテーブルに茶碗を並べ、シオンはリタの隣に座った。


「おお! ご飯に卵をかけただけとはいえ、立派な料理じゃないか!」


 この異世界で初めてまともな料理が出てきた。軽く感動すら覚える。


「こ、これを使うとさらにお、おいしくなるです」


 そう言ってシオンが取り出したものは黒い液体で満たされた小瓶。

 目を凝らしてみると“カラクシア”と読み取れた。また異世界語だが、俺はその名前は見覚えがあった。


「ショウユだ! やっぱTKG(たまごかけご飯)には鉄板だよな!」


 俺はありがたく受け取ると、ちょろっと茶碗の真ん中に垂らした。

 シオンは「ショウユ…?」と不思議そうな顔をしつつも、遠慮がちに笑っている。


 リタも俺に続き、ショウユを少し垂らす。そしてシオンはあえての何もかけない派だった。

それにしても、そろそろ我慢できそうにない。オレンジ掛かった濃い色でいて、ツヤのある黄身。見ただけで上等な卵だとわかる。


「「「いただきます!」」」


 

 言うと同時に俺はまず黄身を箸でつまんでみた。


「おお…!」


 やはり形を崩すことなく持ち上げることができた。これは新鮮な卵だからこそできるのだ。


 そしていよいよ実食。慎重に箸を入れて、白身と黄身を混ぜ、ごはんになじませていく。

かき混ぜていくうちに、徐々にごはんが黄金色になっていくこの過程が、さらにテンションを上げてくれるのだ。

ごくり。おれは生唾を飲み込んだ。


「そ、そろそろ良いだろう」


 一口、口に運んだ。


「……!」


 な、んだこれ!? 炊き立ての熱々ご飯に絡む、新鮮で濃厚、かつ奥深い味わい。今まで食べてきた卵とはまるで違う!?


 卵自体の甘味と口当たり、そしてコク。生命力を感じさせる深さとは裏腹に滑らかな食感。ほのかにハーブのような爽やかな香りが鼻孔をくすぐる。そしてショウユのしょっぱさがアクセントとなって、それら全てが口の中で一体となる。まさに絶妙!


 もっとゆっくり味わっていたい。だが…。

 俺はじれったくなり、茶碗に直に口をつけ、一気に掻っ込んだ。


「ふい~~!」


 俺もリタも、あっという間に茶碗を空っぽにしてしまっていた。

 たった1杯のご飯だが、ものすごい満足感だった。こんなにうまいTKGは食ったことがない。


 俺は舌の上に残る余韻を楽しんでいた。


「シオン、その……」


 モゴモゴと歯切れの悪いリタ。何か言いたそうだ。


「……おかわり、ある?」

「欲しがりさんめ!!」


 つい突っ込んでしまった。するとリタは少しバツが悪そうにして


「だって、おいしかったんだもん!」


 と顔を真っ赤にして反論する。その言葉にはこれ以上ない説得力があった。


 しかし


「ごめんねリタ。もう卵がないの……」


 申し訳なさそうにシオンは言った。


「や……そんな申し訳なさそうにしないでよ。私こそごめんね。あんまりにもおいしかったから、ちょっとだけテンションが上がっちゃった」


 その言葉を聞いて、シオンは恥ずかしそうにはにかんだ。


 その後、代わりにネギならあるよ、と丸ごと一本長ネギを出されそうになったが、俺もリタも辞退した。


 何でネギはそのまんまなんだよ!


 真顔で出してくるあたり、やはりこの世界はまともじゃない!

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