道具店の娘。…そして何気に上がった俺のレベル
町の入口にたどり着くと、リタは女の子をベンチに寝かせ、俺にこの場を頼むとすぐにどこかへと走って行ってしまった。
「頼むって…俺に何が」
無力感を感じつつ女の子の様子を見ていると、だんだんと呼吸の感覚が空いてしかも弱くなっている。
やばいんじゃないか、これ。でも、俺は診察出来ないし、薬も出せない。
「いや、そうだ。道具……!」
それは切羽詰まった末の偶然のひらめき。俺は村長に貰った道具類を思い出した。
「体力回復のためのグミ、状態異常を治す薬。そんなのが入ってるって書いてたな!」
俺は心の中で謝りつつ、苦しそうに身もだえる女の子の顔を凝視した。
「……(アナライズッ!)」
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シオン・タイラー
性別:女
職業:道具店
<ステータス>
人としてのレベル:7
攻撃力:5
防御力:3
魔力:150
器用さ:1
回避:3
<特記事項>
現在進行形で育っている胸が悩み。小さいころからの友達であるリタくらいのぺったんこに、密かにあこがれている。
ステータス異常:カリンガの毒
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プライバシーを侵害したことに心の中で謝りつつ、俺は道具袋を漁る。
“カリンガの毒”が何のことかは分からないが、治す薬が入っていることを祈る。
ここで、重大なことに気付いた。俺には道具を見てもそれが何なのかまでは分からない。
「くそッ! どうしたら」
何か分からないかと、手に取った瓶を必死に凝視する。
と
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クリスタルカイザー
タイプ:道具
効果:ステータス異常“爆笑”に効く薬
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「おお!」
どうやら、俺の目は道具類に対しても有効らしかった。
すぐさま袋に入っている全ての瓶を並べて、くまなく調べる。
すると
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アンチドート
タイプ:道具
効果:ステータス異常“毒”に効く薬
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緑色の薬で満たされた瓶に差し掛かったところで、俺は発見した。
これが、カリンガの毒とやらにも効果があるのかまでは分からない。
だがこのまま何もしないよりはましだと思い、俺は苦しそうに息を吐く女の子の口に、薬品を流しいれた。
「ゲホ…ッ!」
何度もむせかえり、そのたびに薬が俺の顔やあちこちを濡らしたが、それに構う余裕はなかった。
俺は何とか一瓶全部を飲ませ終え、女の子の様子をうかがった。
効いてくれ、頼む! 心の中で何度も祈っては、組んだ両手に力を込める。
「……ん」
かすかな吐息。俺は閉じた目を恐る恐る開くと
「……?」
女の子が目を開けていた。そして、弱よわしいが、唇を動かして何かを言おうとしている。
「こ、こは……? 私、えっと」
「良かったッ。薬、効いたんだな」
ほっとして脱力仕掛けた次の瞬間、頭に強烈な衝撃が走り、俺は地面に倒れた。
「ちょっと、何やってるの!?」
仰向けになった俺の目に入ったのは、リタの鬼のような形相だった。
「……シオン! よかった、意識を取り戻したのね」
「……リ、タ? それに宿屋のおばさん?」
リタの後ろには大柄のおばさんがいた。人のよさそうなその顔は、今や心配そうに眉を下げていた。
それにしても、何で俺は殴られた…?
疑問は、次のリタの言葉が解決してくれた。
「大丈夫なの…? この変態に何かされなかった?」
俺を指差しながら、必死の様子でシオンに問いかけるリタ。
なんで俺が変態? そう思ったが、先ほどまで俺がしていたことを思い出した。
呼吸の荒い少女の傍らに手を置いて見降ろす男。少女の髪は乱れ、血走った眼で男はそれを見ている。
「あ、変態だわ…」
実際はシオンの様子をアナライズで見ていただけなのだが、今のリタは何を言っても聞いてくれそうにない。
と、シオンがゆっくりと状態を起こした。まだ少し熱っぽい様子だが、さっきまでより大分ましにはなったようだった。
「大丈夫、リタ。私、あの人に助けてもらったみたい。ほら…」
そう言って地面に転がる空っぽの瓶を指差した。
「あれは…?」
「私、毒に侵されてて、それであの人が解毒剤を飲ませてくれたの」
「本当…? あいつの毒牙に犯されたんじゃなくて…?」
「何言ってんの。お前、たまにオッサンみたいなこと言うなぁ…」
服に着いた土を払いながら、俺はゆっくりと立ち上がった。
くそ、まだ頭が痛い。思いっきりどつきやがったな。
だが、俺の突っ込みを無視してリタはシオンを心配そうに見ている。
「まだ熱があるね。念の為医者を呼ぶよ。あんた達は先に部屋に行ってな」
そう言っておばさんはどたどたと走って行ってしまった。
リタはシオンに肩を貸して、ゆっくりと立ち上がらせている。
「あ、の…。あり、がとう、ございました、です」
「…ん?」
何か言われた気がしたので振り向くと、シオンは慌ててリタの影に隠れた。
「うわわわ、ちょっと!?」
「ご、ごめんなさい!」
リタはバランスを崩して、こけそうになっていた。
「シュート、あんまりシオンを怖がらせないで!」
「いや、俺何もしてないんだけど…」
抗議するも、リタはまるでひな鳥を守る親鳥のように、俺を威嚇する。
だめだこいつ。今は何を言ってもむだだ。
それに、寝静まった街中でこれ以上騒ぐと絶対町の人に怒られる。
俺はだまって謂れのない誹りに耐えた。
結局シオンは解毒剤が良く効いたのか、特に問題ないということだったが、念の為1晩だけ安静にしておくように、ということでリタと同じ部屋に泊まることになった。
これは余談かも知れないが、俺は宿屋の部屋で、寝る前に顔を洗い、ふと自分の顔を見ると
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小森田 秀人
性別:男
職業:限りなくニートに近い高校生
<ステータス>
人としてのレベル:1.5
攻撃力:10
防御力:13
魔力:0
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村長からもらった薬草類を食べたおかげか、攻撃力、防御力が異様にアップしていた。