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ニートの俺が、異世界唯一の料理人!?  作者: 淡井ハナ
第二章 新たな出会いにタコライスを
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魔物との初遭遇

 村長と分かれてどれくらい歩いただろうか。

 すっかり暗くなってしまった山は昼とは全く様子が異なり、不気味ですらある。例え人が通る為に舗装された道であっても、なんとなく不安になる。


 下り道になったことを考えると、もうすぐ山を抜けるのか? 早く抜けたい。


「ほら、何ビクビクしてるのよ。もうすぐロゼの町につくから。早く行かないと、宿屋もしまっちゃうよ!」


 そんな事を言いながら、リタは全く怖じることなくずんずんと進んでいく。

 何それ勇ましい。手、繋いでもらって良いですか。


 俺がリタにそう提案しようとすると、リタは不意に俺に尋ねてくる。


「ところで、さっきお父さんと何話してたの?」


 俺は村長から聞かされた、リタの話を思い出した。

 でも、俺の口から言うのは何か違う気がした。


「ああ。道中リタを守ってくれってさ。そんで旅に必要だろうからっつってこれ貰った」


 俺は小物入れの袋を取り出して見せた。


「ふ~ん、そんだけ? 何かもっと大事な話をしてるように見えたけどな?」


 と言ってリタは俺の顔を覗き込んでくる。ちょ、顔近いっつの。

 リタは俺の反応を楽しむようにクスクスと笑い


「でもシュートに守られるって…。こんな怖がりに?」


 そう言って馬鹿にしたような表情になる。

 くそっ。いつかこいつの弱点を見つけて、ネチネチとせめてやる。


 話の流れ的に分が悪かったので、俺は村長に貰った袋をあさるという作業に逃げた。


「……ん、んん?」


 中には怪しい液体の入った瓶やグミ、薬草などが詰め込まれていた。その中に折りたたまれた紙切れが入っているのを見つけ、気になってそれを広げてみる。


 どうやら村長からの伝言らしい。お世辞にもキレイとは言い難い字だ。


――体力回復のためのグミ、状態異常を治す薬。そして能力を底上げする薬草類を入れておきます。あなたは魔力を扱えず、攻撃力、防御力ともに1。そんな貧弱なステータスではこの先とてもやっていけないでしょう。僅かばかりですが、能力向上の足しにしてください。かしこ――


「放っとけ!!」


 的確な指摘に悔しくなり、俺はメモをくしゃくしゃっと丸めて投げ捨てた。

 メモは木々の奥深くに飲み込まれて見えなくなった。ざまあみやがれ!


 何か違和感のあるメモだったが、多分気のせいだ。

 俺は道具入れに入っていた薬草を、ヤケクソ気味にありったけ鷲掴み、もっしゃもっしゃと口に入れた。


「何やってんの?」

「べ、別に何でもないんだからね!」


 ちょっと涙目になっている顔を見られたくなくて、俺は顔を背けた。

 そんな俺の様子に、リタは不思議そうな顔をしていた。


「あ、ほら良かったね。街道に出たよ!」

「え…? お、おぉ~~!」


 リタが小走りで先に行くので、俺は置いていかれなように走った。

 すると、目の前には見渡す限りの草原。そして堅そうな岩が点在している。

 馬車とかが通りそうな道だな、と思ってリタに聞くと、どうやらその通りらしい。やはりこの世界は俺の世界で言うと近代以前の世界のようだ。


「え? ちょ、ちょっとシュート、あれ!」


 リタが前方を指差して言う。何やらただ事ではない様子に、俺もそちらを見るも、何もない。

 だが、リタは突然駆け出した。しかもリタの傍らにはいくつもの火の玉が出現している。


 まさか、魔物とやら出たんだろうか。もしそうなら、下手にリタの傍を離れると、俺が危ない。


 俺は置いていかれないよう、疲れた体に鞭を打って追いかける。


「ハア…ッ!」


 大分走った先、暗闇のなか火柱が上がり、リタの戦う姿が照らされた。

 やはり魔物と闘っているようだ。しかもリタは何匹かに囲まれているではないか。


 助けに入った方がいいのか。でも、俺が行ったところで逆に足手まといになりかねないし…。


「シュート…!」


 何より俺が危険だ。でも村長にリタを頼まれてるし、俺はどうすれば


「危ない!」

「え…?」


 どうしようか考えあぐねているところに、リタのつんざくような声が思考に割って入る。

 何事か、とそちらに目を向けるが、


「え」


 眼前には牙。狼のような魔物の、俺を喰らうための牙が、月明かりに照らされ、目の前に大写しになる。


「うわぁあああ!」


 咄嗟に俺は手に持っていた小物入れを振り回した。

――ガツッ!

 出鱈目に振り回したそれは、運よく魔物の横っ面にまともに入った。


 でも、それで致命傷になったとも思えない。何せ、俺の攻撃力は1だ。

 

 ところが、魔物はピクピクと痙攣し、地面に崩れ落ちた。


「え…?」


 何が何だかわからないが、どうやらクリティカルヒットしたらしいな。


「ラッキー!」

「シュート…! もう一体行った!」


 これでもう大丈夫。そう安堵したところに、再びリタの声が響く。

 今度は、もう一体魔物が俺に体当たりを仕掛けて来ていた。


 避けようと思ったが、怖くて体が動いてくれない。

 俺は身構えることしかできず、魔物の体当たり俺のわき腹にまともに入った。


 しかし、喰らった俺の方は何ともない。

 それに対し魔物の方は、白目を剝いてズルッと崩れ落ちた。


 今しかない。俺は恐怖を抑えて倒れた魔物の腹に蹴りを入れた。


 まともに入った手ごたえをつま先に感じる。

 生き物の骨を砕くとても不快な感触と音。

 魔物は短く甲高い悲鳴を挙げたと思ったら、煙を上げてまるで蒸発したように消えてしまった。


 何が何だか分からないが、俺は反射的にリタを見た。

 まさかやられて――!?


 辺り一面真っ暗な所為で、リタがどうなっているのか分からない。

 たまらず、俺は先ほどまでリタが居た方向に走り出そうと足を踏み出したその時


――轟!!


 ものすごい音とともに、目の前に3条の火柱が上がり、その中心にリタが立っていた。


 一瞬見えたそのかおは、戦いを楽しむように、笑っているように見えた。


 いや、どんだけ強いんだよコイツ…。


 火柱の下には、もう動かなくなった魔物が3体。やはり煙を上げてほどなく消えた。


 ようやく危険はなくなったが、リタは大丈夫なのか。殺人衝動に駆られた殺戮人形の人格が覚醒してたりしない、よな?


 俺の頭によぎったリタは笑いながら人間の生血を啜っている。そのあまりのおぞましさに恐怖し、暫くその場に立ち尽くす俺。


「どうしました? 大丈夫? ちょっと!?」


 リタの切羽詰まった声でようやく俺は我に返った。

 直後リタは俺を必死に呼ぶので、俺も急いで駆け付けた。


 暗くてよく見えないが、しゃがみ込むリタの傍に、誰か倒れているらしい。


 さっきの魔物に襲われたのだろうか。その人物の呼吸が、暗がりで良く響く。

 どうやら危険な状態らしく、ひどく呼吸が乱れている。


 その時、丁度月明かりが辺りを照らした。倒れているのは俺よりも大分小さな女の子だった。か弱げな肩を苦しそうに上下させている。


 こんな時間に、こんなところで、女の子が一人で何をして…?

 俺がそう思っていると


「――!? シオン?! シオンなの…ッ?」


 リタは突然、ひどく取り乱した。どうやらリタは、女の子の知り合いらしい。


「ひどい熱…! ど、どうしよう、シュート……」


 と、リタは途方に暮れて言う。

 って、俺に言われても。こういうとき、どうしたら良いんだ?


 ここには携帯も無ければ、救急車も無い。

 俺には分からない。俺を頼らないでくれよ!


「と、とにかく町の誰かに助けを求めよう! こ、ここから近いのか?」


 切羽詰まった俺が何とか絞り出した言葉。

 しかしリタは


「そう遠くない…。早く、助けを呼ばなくちゃ…!」


 そう言って、シオンと呼んだ女の子を両手で抱え、必死の形相で走り出した。


「……あ」


 置いて行かれた俺は、今まで感じたことのない気持ちを抱いていた。


 俺はあんなに誰かに対して必死になったことはない。

 こんな事を思っては不謹慎かもしれないが、あんな顔ができるリタが、少しだけどうらやましい。


 俺はその場にいるのが居たたまれなくなり、置いていかれないようにリタを追いかけた。



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