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ニートの俺が、異世界唯一の料理人!?  作者: 淡井ハナ
第二章 新たな出会いにタコライスを
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かわいい子には旅をさせよ

 暫く山道を外れたところでじっと待機し、日が傾きかけた頃、俺たちは出発することになった。

 すぐに山を抜けて隣町を目指せば、竜騎兵たちに見つかるかもしれないとの判断からだったが、おかげで今俺達は手持ちの水も食料もなく干からびそうだった。


 今魔物に狙われでもしたら、相当マズイことになるが、幸いこの森には危険な魔物は居ないらしく、今まで一度も遭遇することなく、どうにか過ごせた。

 

 そして、リタの野性的勘としか言いようのないフィーリングで、再び人が通るための舗装道に戻ってきていた。


「じゃあ、そろそろ出発するわよ!」

「あ、ああ……」


 何故か元気一杯のリタは、ダレている俺を見て、眉をつり上げ


「ほら…! ごー!!」

「うわっ! ちょっ…」


 俺の腕を引っ張って無理やり立たせたと思ったら、そのままずんずんと進んでいく。


 ああ、これちょっと楽だな。しばらくは引っ張られていよう。

 

 ふと空を見上げてみると、夕日で茜色に染まっていた。それは元の世界で見た光景と同じ様でいて全く異なる空。太陽の周りにうっすらと紫色のリングが見え、すごく幻想的な色をしている。

 

 心地よい風がさわり、と木々を揺らした。澄み切った空気で肺を満たす。

 この空気のにおいや雰囲気を感じると、やはりここが異世界なんだ、と実感する。


「ちょっと、いつまで私に引っ張らせる気!?」


 なんて、人が折角浸っていると、リタが横やりを入れてきた。しかも肘で。


 痛みに呻く俺を放置し、リタはさっさと先に行ってしまった。


「ちょ…放置とか」


 エルボーがクリティカルヒットした脇腹を抑えつつ、俺も後を追った。

が、


「――――!」


 道の向こうで、リタがただならぬ声を上げている。

 俺はしまった、と思い走り出した。


「お父さん!? 何でここに?」

「って村長かよ!?」


 焦って損した。つか何で村長がここに居る? 竜騎兵たちはどうしたんだ

よ。


 俺は、ずっこけてしまったが、とりあえず村長がここに来た理由を確かめるべく二人の元へ駆け寄った。


「無事でよかったよ…!」


 リタは緊張の糸が切れたように、目に涙を溜めて村長に抱きついた。

 村長は何も言わず、ただ優しく娘を受け止めていた。


 と、リタは俺の存在を思い出したのか、少し恥ずかしそうに村長から離れた。

 村長はリタの頭にぽん、と手を乗せ、そして俺に向き直って、その口を開いた。


「我々と兵士たちが衝突した時、意識を取り戻した兵長の男が争いを調停してくださいました。しかしまだ足元がおぼつかない様子でしたので、我々の方で看病し、今は呼吸も落ち着いております。ですので、我々村人はケガ人も出ておりません」

「よかった…」


 ほっとしたように、リタはため息を漏らす。

 でも、俺は安心する気にはなれなかった。村長の話は続きがある筈だ。


「ですが、勇者様、そしてリタ、お前にも。兵士たちから出頭命令が出ている」

「出頭命令…」


「はい。今命令に従うのであれば、勇者様については大事にはしない、とのことです」

「俺、は。ってことは……」

「はい、リタが竜騎兵の一人に手を挙げたことについては、言い逃れのしようもない事実。即刻出頭せよ、とのお達しです」

「…そんな!?」


 今まで沈黙を貫いていたリタが、ショックを隠し切れない様子で声を上げた。


「……もし、逆らったら?」


 俺は、恐る恐る村長に訊ねた。しかし、村長は腕を組んで俯きながら、何も言わない。

 

 暗くなり始めた空。白銀と紅の二つの月が顔を出した。

 この異世界特有の幻想的な月が、今は不吉なものに思えた。


「……お、父さん?」


 リタが村長を不安そうに見上げ、問いかける。


「ふっ……」

「「……へ?」」

「ぶっはっはっはっはっは!!」


 村長は大口開けて突然大笑いを始めた!? どういう事だ。国軍が自分の娘に逮捕命令を出したってのに、何でそんな爆笑?


 俺とリタが呆気にとられていると、村長はそんな俺達を見て、ごほんと咳払いを一つ。居住まいを正して説明する。


「いや、すまんかった。笑うところではなかったな」


 勝手に爆笑して、勝手に謝る。感情の揺れ幅が半端な過ぎて、ついて行けない。

 俺とリタは顔を見合わせ、互いに首を傾げる。


「リタ、お前も知ってのとおり、今この世界は魔王軍の脅威に対抗するため、全兵を魔王軍との戦いに充てているのだ。たかが村娘一人を追い回すヒマなどないよ」

「ってことは、私、無罪放免ってこと…?」

「実質的にはそういう事になるな」


 どういうことだ…? さっきは出頭命令がどうのとか言ってなかったか?

 俺が合点のいかない、という顔をしていると、村長が解説する。


「つまりはこういう事です、勇者様。連中はあなたの奇跡の御業の噂を聞き、それを魔王軍の呪術と誤解する。そして、わざわざこんな最果ての村にまで大軍率いてやって来てみれば、暑さで兵士を率いる者は熱中症で倒れ、取り乱したところを村娘に諌められ、挙句に奇跡の御業は呪術などとは何の関係もない」


 心底おかしそうに、村長は説明を続ける。何か、これだけ聞いてみれば本当にあいつら、バカだな。


「面目丸つぶれですな。しかし、連中も素直に失態を認め、リタの反逆行為をおとがめなし、とする訳にはいかんのです」

「…何でだ?」

「実際のところ、国王軍は魔王軍の前に劣勢で、今回のような話ひとつで軍全体に動揺が走る程、魔王軍を恐れている。しかし、それを民衆に知られ、いたずらに混乱を広める訳にはいかない、と彼らは考えているのです」

「それでも、せめてリタには謝って、出頭命令なんて撤回すべきだろ!」


 俺は憤慨した。何だ、それ。そんな面子にこだわって、リタを犯罪者扱いかよ。


「……娘のためにそこまで憤って下さるなんて。ありがとうございます、勇者様」


 村長に言われて気づいた。何で俺、他人のことで、こんなにキレてるんだ? 常に冷めていて無関心、が俺のモットーだったはずなんだが…。


「シュート……」


 なんとなく視線を感じた俺は、チラとリタを見ると、目が合ってしまい、思わず背けてしまう。


「兵長が、直接リタに会って謝りたいとおっしゃっておりました。出頭命令とはつまりそういうことでしょうな」


 そういうことか。何だ、あのおっさん。悪いヤツと思ったら、意外とそうでもないのか?


 でも、これで村に戻れる。そんであの兵長が元気になったら、俺とリタで会いに行って今回の件は終わり。俺はまたのんびりと村で料理だけやってりゃ良い。


 そうだ、これを機に新メニューを考えようじゃないか! 

 こってり料理が続いたから、あっさり目の魚料理なんて良いんじゃないか?


「…私、帰らないよ」

「「……へ?」」


 俺と村長は同時にリタを見た。今、何て言った?


「私、シュートに約束したから。シュートが元の世界に帰れるように、私が手がかりを探すって!」

「いやいや、ちょっと待てよ! 俺――」

「シュートは黙ってて!!」

「……はい」


 すごい剣幕だ。つーか、俺のために旅に出るとか言っといて、俺の意向は無視ですかそうですか。


「私だったら、いきなり知らない世界に放り出されたら、不安で押しつぶされちゃうよ。きっと、シュートだってそう。元の世界にすぐにでも帰りたい筈だよ」


 いや、確かに帰りたいんですが、俺はもっと平穏な方法で帰る方法を探したいんです。旅とか、そんな引きこもりと正反対のことはしたくないんです!


 さっきは雰囲気に流されて、承諾してしまったが、よく考えると、やっぱ俺には無理だ。


 夜風を受けて周りの木々がざわめいている。その音は何も言えない俺に代わって、抗議の声を代弁しているように、俺には聞こえた。いいぞ、もっとやれ。


「……お父さんからも何とか言ってやってくださいよ」


 俺は声には出さず、唇の動きとジェスチャーで、何とか村長に伝わるように懸命に念を送った。村長はそんな俺を確認し、親指をぐっと立て「ニッ」と笑った。ナイスミドル!!


「リタ。……お前は昔から、いつか村を出たい。世界を見たいと言っていたな」


 優しげに諭し始める村長。まるで説得に長けた先生のようなその雰囲気に俺は安心した。


「うん。それもある。私、村は大好きだけど、やっぱり色々な物を、世界を見て回りたい!」

「……外の世界は危険がたくさんある。魔物や魔王軍、そして王都の下町など、治安が悪くなっているとも聞く。それでもお前は、外へ出たいと言うのか?」

「危険は承知の上だよ! それに、私にはシュートが居る。だから大丈夫だよ!」


 娘の言葉を受けて、村長はため息を吐いた。

 そうだ、暴走している世間知らずの娘に言ってやれ、お父さん!!


「……分かった。そこまで言うなら、もう私からは何も言うまい」


 そうそう、その調子だ。…………っておいィイィイィいい!!!???


「お父さん…ッ! ありがとう!」


 リタは感極まったのか、再び父に抱きついた。


「違うだろ、お父さん!! 何で了解しちゃってるの!? ここは何としても娘を止めるべきでしょ! さっきの親指は何だったんだァあああ!?」


 俺は村長に前のめりになって食って掛かる。が、村長に近寄ったところで、リタに阻まれてしまった。


「さっき、勇者様は私から激励の言葉をかけてやって欲しいというメッセージを送ってくださいましたでしょう」

「え…?! いやいや、そうじゃなくて……」


 ブンブンと首を振って全力で否定する。

 が、村長はここでなにやら静かなる迫力を全身から滲みだして重ねて言う。


「というか、私は例え勇者様にでも、お父さんと呼ばれたくはないですな」

「す、すいません……」


 いや、怖ェよ! どうやら、リタの迫力は父親ゆずりらしい。

 俺はもう、何も言えなくなってしまった。

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