休憩時間の戦い
・世界の色々な料理をテーマに異世界要素を足した小説です。
・魔法や剣、勇者・魔王といったファンタジー要素も一応あります。
「逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ……」
俺は決心した。今日こそ言うんだ。俺が目指しているのは料理人(シェフ)じゃなくて主夫(シュフ)だって。
そうだ。俺は働きたくなど無い。俺は、この世に生を受けたときから確信していた。
「働いたら負けだ!」
だから俺は、小さなころから母親の手伝いを積極的に手伝ってきた。
「秀人は偉いね」
と母親はよく俺に言ってくれたが、そこには一つ誤解があった。
「俺は、将来専業主夫になるために小さなころから主夫スキルを鍛えてたんだよ……。
フッフッフ」
絶対に社会に出たくない、とその強い思いが俺の主夫スキルをめきめきと伸ばしていった。
だがそのスキルは決して外で働くために磨いたものじゃない! 断じて違う!!
「今日こそ俺は言ってやる……。あの凶暴な女にだって言ってやる!」
休憩室と呼ぶにはあまりにもボロい倉庫の隅で膝を抱えて座りながら、決心を固めた。
「俺、小森田 秀人は今日主夫になる。料理人なんて辞めてやんよ!!」
おもむろに立ち上がり、スープ汚れが点々とついた白エプロンをがばっと外す。
そして俺は決心が鈍らないようずんずんと歩き出し、勢い任せに扉を開け放った。
「わっ! ビックリした……」
扉の前には、俺がこんな辺鄙な村の料理人になった原因を作った女の子、リタが居た。
いきなり俺が出てきたもんだから、驚いた顔をしている。その表情に思わず見とれてしまいそうになる。だが、だまされてはいけない。こいつ、顔はものすごくかわいいが、性格は災厄レベル。何度涙目にさせられたことか。
いや、泣いてない。断じて泣いてないからね。
ノックをしようとしていたところを見ると、俺を探していたのか。いや、そんなはずはないな。どうせまた、俺がさぼったりバックレたりしないか、見張りに来たに違いない。
だが丁度良かった。探す手間が省けたのだ。この勢いのまま、言ってやる。言ってやるぞ!
「おい、リタ! 実は俺―――――」
「ちょっと、何サボってるの! またテーブルが満員になったよ! 皆シュートの“まーぼー”に期待してるんだから、早く来て!」
「…………はい。すみません」
リタのちょっと強い語調を前に、俺は何も言えなくなってしまった。
これで何回目だろうか。しょうがない。調理場へ戻ろう…………。
俺はくしゃくしゃにしたエプロンを広げて、ひもを結び直すのだった。
「……いや、ホントに泣いてないからね」