表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

01. 「…………………なぜ」

 事の始まりは、僕の下駄箱に入っていた赤紙だった。

 

 ……………赤紙。

 別名、招集令状。

 その昔の日本で、軍が兵を招集するために出した令状のことを差す。

 ……………………………赤紙。

 間違ってもーーーある日、高校生の下駄箱に入っているものでは無い。

 ミスマッチすぎる。

 というか、マッチしてない。

 マッチしてないと、差出人も思ったのだろう。

 

 だからといって、真っ白い封筒に赤のハートで、いかにもラブレターっぽく仕上げるなよなあ!

 不覚にもときめいちゃったよ!

 んで、開けたらこれだよ!

 

 「…んでんでんでんで」

 それで。

 赤紙。別名、招集令状。

 この学校における、六不思議の一つ。

 ぶっちゃけ、実在するとは思ってなかったけれど…。

 

 封筒から出てきた、二つ折りになっているそれを開く。

 中央に、縦書きの毛筆で只一言。


 《放課後、四階代表議室で貴様を待つ。》

 

 ………。

 招集どころか、最早果たし状だった。



        ▲▽



 都立論花高校にも、いわゆる「学校の怪談」が存在する。

 正体の分からないものや奇妙なもの。それらを集めたいわば「七不思議」。

 

 人から人へと伝わるうちに尾ひれがついたものが大半なのだろう。そう考えつつも、生徒の中にそれらを知らない者は居なかった。

 

 生徒の中に潜んでいる理事長。

 開放した年には必ず誰かが飛び降りる屋上。

 十月六日・金曜日にのみ発生するパラレルワールド。

 存在しないはずの生徒。

 学校のどこかにある地下への階段。

 ある日突然届く赤紙。


 普通の話と違うのは、七ではなく六。六不思議であるということ。

 そして、全て本当の話であるということだ。



        ▲▽



 「……などと意味不明な供述をしており、みたいな」

 四月当初に配布された生徒手帳を見ながらぼやく。

 嘘くせー。

 というか、なぜ生徒手帳に書いてあるんだ。

 学校公認なのか?


 「…でも、いくつか本当の事も入ってる」

 

 例えば四つ目。《存在しないはずの生徒》。

 全校生徒、教職員に至るまで探しても、その生徒は見つからない。容姿も、学年さえ分からない。


 春日日春(カスガヒバル)

 

 唯一分かっているのは、その名前だけだ。

 まぁ、偽名なのだろうけれど。


 では何故、その存在が認知されているのかと言うと、春日日春が務める校内放送が普通なら有り得ない、からだ。


 僕がこの高校に入学して早二ヶ月だが、放送には未だに慣れない。

 今後も慣れる事は無いだろう。


 先週は、はつらつとしたアニメ声。

 その前は渋いおっさんの声。

 またその前は爽やかなイケメンボイス。

 さらに、舌っ足らずなショタ声、アヒル声、エロいお姉さんや、果てにはミッキーマウス…。


 春日日春には、特定された声が無い。

 だから、「彼女」と呼ぶべきか「彼」と呼ぶべきか、誰にも判断できない。

 

 ーーーーーーで。

 そんな無限の声を持つ春日日春。ミステリアスな背景と素敵な声に魅了された数多のファンが、今までに何回も彼女…もしくは彼…を特定しようと頑張ってきた。

 

 しかし、見つからない。


 そもそも、全校に向けて放送できる機具があるのは只二つ。職員室と放送室だ。

 とは言っても、お昼時の職員室で堂々と昼の放送をしている訳は無いし、となると、春日日春の居場所は放送室に限られる。

 

 しかし。

 数年前から放送室には鍵がかけられ、誰も入れない状態になっている。


 ならば春日日春本人が鍵を持っているのだ!と信じて、カメラを仕掛けたり待ち伏せした者も居たが。

 結局、今までで一度も放送室の扉が開くことは無かった。


 …というのが、春日日春についての「伝説」。

 ちなみに、春日日春複数説を疑った生徒が放送の声紋を調べた結果、全て同一人物のものだったそうな。


 ーーーさて。

 現在、午後三時五十分。

 約束の時間まであと十分程度。


 僕は生徒手帳と薄い鞄を手に、昇降口に向かっていた。

 無論、逃げる為である。


 …冷静に考えたら、あの赤紙には何の強制力も無いのだ。律儀に従う必要なんて無い。むしろ下駄箱を間違えたんだ。こんな、没個性から産まれました!みたいな奴に、向こうも用は無いだろう。


 ーーーーーー向こう。

 赤紙の差出人。

 北校舎四階、代表議室を根城にしている連中。

 通称、「代表議会」。

 

 僕は詳しく知らない。

 詳しく知っている奴なんて、それこそ代表議会の連中だけだろうが、そもそも誰が所属しているのかも、何人所属しているのかも、ほとんど知られていない。

 まあ、一部は知られている。生徒会との仲が悪いのなんて特に有名だ。

 

 …そういえば、生徒会と代表議会の明確な差は何なんだ?

 その疑問が浮かぶと同時に、下駄箱の前に到着する。

 

 「…ま、どうでもいっか」


 これから先過ごしていけば、嫌でも分かるだろう。取り敢えず今日は、帰る。

 そう自分を納得させ、朝のように下駄箱を開ける。


 開かなかった。


 「………………、なぜ」

 

 引っ張ってみる。ガチャガチャと、明らかにロックされた音。

 朝まで無かった鍵穴が付いているから、大体予想はできるけどさぁ。


 仕事速すぎだよ!

 もっと他にやり方あっただろ!


 …しかし、「このままじゃ帰れない」。

 あーあ。

 

 僕は、鍵を開けてもらうため、さっき降りてきた階段に向き直った。

 代表議会に文句の一つでも言うために。


 「こんにちは、袴田灯鳴(ハカマダヒナリ)さんですね!では諦めて一緒に四階へGO!」


 ーーー振り返った先、二階へ続く階段の踊場に、見知らぬ少女が立っていた。

読んで頂きありがとうございます。

次回もぐだぐだ展開です!o(^o^)o


よろしければお付き合い下さい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ