01. 「…………………なぜ」
事の始まりは、僕の下駄箱に入っていた赤紙だった。
……………赤紙。
別名、招集令状。
その昔の日本で、軍が兵を招集するために出した令状のことを差す。
……………………………赤紙。
間違ってもーーーある日、高校生の下駄箱に入っているものでは無い。
ミスマッチすぎる。
というか、マッチしてない。
マッチしてないと、差出人も思ったのだろう。
だからといって、真っ白い封筒に赤のハートで、いかにもラブレターっぽく仕上げるなよなあ!
不覚にもときめいちゃったよ!
んで、開けたらこれだよ!
「…んでんでんでんで」
それで。
赤紙。別名、招集令状。
この学校における、六不思議の一つ。
ぶっちゃけ、実在するとは思ってなかったけれど…。
封筒から出てきた、二つ折りになっているそれを開く。
中央に、縦書きの毛筆で只一言。
《放課後、四階代表議室で貴様を待つ。》
………。
招集どころか、最早果たし状だった。
▲▽
都立論花高校にも、いわゆる「学校の怪談」が存在する。
正体の分からないものや奇妙なもの。それらを集めたいわば「七不思議」。
人から人へと伝わるうちに尾ひれがついたものが大半なのだろう。そう考えつつも、生徒の中にそれらを知らない者は居なかった。
生徒の中に潜んでいる理事長。
開放した年には必ず誰かが飛び降りる屋上。
十月六日・金曜日にのみ発生するパラレルワールド。
存在しないはずの生徒。
学校のどこかにある地下への階段。
ある日突然届く赤紙。
普通の話と違うのは、七ではなく六。六不思議であるということ。
そして、全て本当の話であるということだ。
▲▽
「……などと意味不明な供述をしており、みたいな」
四月当初に配布された生徒手帳を見ながらぼやく。
嘘くせー。
というか、なぜ生徒手帳に書いてあるんだ。
学校公認なのか?
「…でも、いくつか本当の事も入ってる」
例えば四つ目。《存在しないはずの生徒》。
全校生徒、教職員に至るまで探しても、その生徒は見つからない。容姿も、学年さえ分からない。
春日日春。
唯一分かっているのは、その名前だけだ。
まぁ、偽名なのだろうけれど。
では何故、その存在が認知されているのかと言うと、春日日春が務める校内放送が普通なら有り得ない、からだ。
僕がこの高校に入学して早二ヶ月だが、放送には未だに慣れない。
今後も慣れる事は無いだろう。
先週は、はつらつとしたアニメ声。
その前は渋いおっさんの声。
またその前は爽やかなイケメンボイス。
さらに、舌っ足らずなショタ声、アヒル声、エロいお姉さんや、果てにはミッキーマウス…。
春日日春には、特定された声が無い。
だから、「彼女」と呼ぶべきか「彼」と呼ぶべきか、誰にも判断できない。
ーーーーーーで。
そんな無限の声を持つ春日日春。ミステリアスな背景と素敵な声に魅了された数多のファンが、今までに何回も彼女…もしくは彼…を特定しようと頑張ってきた。
しかし、見つからない。
そもそも、全校に向けて放送できる機具があるのは只二つ。職員室と放送室だ。
とは言っても、お昼時の職員室で堂々と昼の放送をしている訳は無いし、となると、春日日春の居場所は放送室に限られる。
しかし。
数年前から放送室には鍵がかけられ、誰も入れない状態になっている。
ならば春日日春本人が鍵を持っているのだ!と信じて、カメラを仕掛けたり待ち伏せした者も居たが。
結局、今までで一度も放送室の扉が開くことは無かった。
…というのが、春日日春についての「伝説」。
ちなみに、春日日春複数説を疑った生徒が放送の声紋を調べた結果、全て同一人物のものだったそうな。
ーーーさて。
現在、午後三時五十分。
約束の時間まであと十分程度。
僕は生徒手帳と薄い鞄を手に、昇降口に向かっていた。
無論、逃げる為である。
…冷静に考えたら、あの赤紙には何の強制力も無いのだ。律儀に従う必要なんて無い。むしろ下駄箱を間違えたんだ。こんな、没個性から産まれました!みたいな奴に、向こうも用は無いだろう。
ーーーーーー向こう。
赤紙の差出人。
北校舎四階、代表議室を根城にしている連中。
通称、「代表議会」。
僕は詳しく知らない。
詳しく知っている奴なんて、それこそ代表議会の連中だけだろうが、そもそも誰が所属しているのかも、何人所属しているのかも、ほとんど知られていない。
まあ、一部は知られている。生徒会との仲が悪いのなんて特に有名だ。
…そういえば、生徒会と代表議会の明確な差は何なんだ?
その疑問が浮かぶと同時に、下駄箱の前に到着する。
「…ま、どうでもいっか」
これから先過ごしていけば、嫌でも分かるだろう。取り敢えず今日は、帰る。
そう自分を納得させ、朝のように下駄箱を開ける。
開かなかった。
「………………、なぜ」
引っ張ってみる。ガチャガチャと、明らかにロックされた音。
朝まで無かった鍵穴が付いているから、大体予想はできるけどさぁ。
仕事速すぎだよ!
もっと他にやり方あっただろ!
…しかし、「このままじゃ帰れない」。
あーあ。
僕は、鍵を開けてもらうため、さっき降りてきた階段に向き直った。
代表議会に文句の一つでも言うために。
「こんにちは、袴田灯鳴さんですね!では諦めて一緒に四階へGO!」
ーーー振り返った先、二階へ続く階段の踊場に、見知らぬ少女が立っていた。
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