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―第漆章 銀色のリューモアー―

 鏡花が転入してきて一週間後の朝の教室。

 俺のクラス――いや、この学園全体で、ある噂が広まっていた。



「あっ、俊ちゃん」



 教室にいた優稀菜が俺に挨拶する。いつも登校途中で会うから優稀菜にしては珍しく早い。



「おー、優稀菜、おはよう」

「あはっ、おはようなの。でさ、俊ちゃん聞いた? あの噂」



 こいつも聞いていたか。



「ああ。この学園を夜な夜な徘徊している謎の人影――だっけか?」

「そうそう、それそれ」



 そう、そんな噂が流れていた。まぁ、もうすぐ夏休み。少し早めの怪談話っていうので成立するって言っちゃ成立しちゃうんだけどさ……。



「妙に色々、リアルな話が混じっているんだよね……」



 そう。優稀菜の言う通り妙にリアルなのだ。

 銃声が聴こえるとか、この学園の近所のひとの話じゃ「雰囲気がまるで違う。長くここに住んでいるからわかる」とか、そのひとならではの独特の物もあるから、信憑性はないものの余計にタチが悪かった。……あれ?



「樹里は一緒じゃないのか?」



 いつも優稀菜と一緒に登校してくるはずの樹里がいなかった。



「ジュリちゃんはね、歩美ちゃんのクラスに行ったの」

「え? 樹里が?」



 それはおかしい話だ。なんでそこに行った? そこに行かずとも、俺に言ってくれれば歩美に伝えるのに。



「うん。噂を聞いた瞬間、雰囲気もガラって変わっちゃったし……おかしかったの」

「あの樹里がそんな噂を聞いて、雰囲気が変わった?」



 それはまたおかしい。樹里はこんな噂、楽しんでさらに怖く調節して広めるだろうに。



「おはよう――ってあれ? 樹里はまだいないの?」

「よう鏡花。もう少しで来ると思うぞ。噂聞いたか?」

「え? 噂?」



 すっかり俺たちに馴染んだ鏡花に俺が噂の内容を説明すると……鏡花の顔色が変わった。



「え……?――っ! ま、まさか……」

「お、おいっ。どうした鏡花!」



 俺が声をかけるも鏡花は気にも留めずに教室から出て行った。



「……どうかしたのかな? みんな」

「さぁ、なの?」



 残された俺と優稀菜はふたりで首を傾げた。



     ❁ ❁ ❁



 昼休み。

 いつも通り、俺、樹里、優稀菜、鏡花の四人で飯を食べていた。

 樹里は鏡花が出て行ったのと入れ替えに教室にきた。驚いていたな。「鏡花がすごいスピードで走ってた!」って。

 鏡花はホームルーム前に帰ってきた。

 なにかに焦っていたような表情は消えていて、平然といつものように過ごしていた。



「鏡花。朝、どうしたんだおまえ?」

「ああ。わたしの思い違いだったらしいわ。ごめんねみんな。心配をさせちゃって」

「いや、なんでもないならいいんだけど……」



 本人がなんでもないように話してるから、俺たちはもうなにも訊かなかった。しつこく訊き過ぎるのはいけないからな。



「え? いいの、俊ちゃん?」

「いいんだよ、もう。興味がなくなった」

「ふーん。そっか。俊ちゃんなりに気を使ったんだね」



 優稀菜は俺の顔を見てそう納得した。うん、流石俺の顔。わかりやすいそうでなによりだね。わざわざ口に出す必要ないもん。



「ご褒美になんかくれよ……なんてな。優稀菜」

「うん、いいよ」

「いいの!?」



 冗談で優稀菜に言った俺は、彼女の予想以上の答えに仰天した。

 優稀菜は自分のカバンに手を突っ込んで何かを探しながら告げる。



「言われなくても渡すつもりだったんだけどね……おっ、あったった。はいっ。新しいエロゲなの!」

「なんと!」



 素晴らしい物がプレゼントされた!



「前に買ったのを忘れてまた買っちゃったみたいなの。それに、俊ちゃんはまだやっていないはずだから、あげるの」

「これからは、お主のことを神様と呼んでいいでしょうか?」



 俺は優稀菜――否! 神様にそう尋ねた。

 すると、神様が俺に苦笑なさりながらおっしゃった。



「いつも通りでいいの」

「じゃあ、そうします」



 神様がおっしゃるんだからしょうがない。これからも優稀菜として扱わせていただきます。



「俊輝……ますます優稀菜の毒牙に……」



 樹里が俺に哀れみの視線を送ってくるが、そんなこと知ったこっちゃない。てか、おまえにだけは言われたくない。

 俺が優稀菜からゲームを貰ってテンションが上がる俺に、鏡花が嘆息しながら忠告を入れてくる。



「まあいいけど、今日持ち物検査だからロッカーに隠しておきなさいよ?」

「おおう。そうだった。ありがとな、鏡花」



 鏡花にお礼を言って俺は、速攻でロッカーにエロゲを隠した。……よかったぁ。もし、鏡花が言ってなかったら俺はクラス中に笑いの渦を巻き起こすとこだった。

 樹里も鏡花も本人曰く、なにもなかったようだし、いつものテンションで昼休みが過ぎて行ったのであった。








                    To be continued

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