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―第陸章 銀色のアフター―

「ひ、ひどい目に遭った……」



 昼休み。休み時間が始まるたびにクラスの連中に追っかけられた俺はクタクタな状態で机に突っ伏していた。



「ほら。しっかりしなさいよ、俊輝」



 そんな可愛そうな俺に向ける容赦ない声は樹里のものでも優稀菜のものでもなく、俺の隣の席の女子のものだった。



「ったく。おまえさんのせいでどんな目に遭ったか知ってるかいな? 鏡花」



 そう。隣にいるのは昨日スーパーで会って今日転入してきた銀髪女子、十七夜鏡花だった。



「そ、そりゃあ……。わたしもなにも考えずに騒いで悪かったと思ってるわよ……」



 少し申し訳なさそうな顔をする鏡花。……なんか卑怯だな。その顔。



「お互いに呼び捨てにするほどの仲にもうなるとは、流石ね」

「あははっ。ふたりとも、なかなかお似合いなの」

『うるさいっ!』



 俺と鏡花は冷やかしを入れてきた樹里と優稀菜に怒鳴りつけた。



「おおーう。鏡花も私たちになんの躊躇いもなくなってきたね~」



 樹里がニヤニヤしながら鏡花に言う。



「あっ……。ご、ごめんなさい。わたし、生意気で……」

「あははっ。いいのいいの。俊ちゃんのお友達は優稀たちのお友達なの、鏡ちゃん。優稀はね、加賀美優稀菜っていうの。よろしくお願いなの♪」

「私は芹沢樹里。よろしくね」



 謝る鏡花に優稀菜と樹里が笑顔で自己紹介。優稀菜に至っては、もうあだ名までできてるし。相変わらずこいつらはすぐに仲良くなれる素質を持っているよね。あとは、趣味さえ変えてくれたらなぁ。



「……樹里、優稀菜。なんかこいつ、とても残念そうにあんたたちを見ていたわよ?」

「知ってる。でも、いつものことだし」

「ひどいなぁ、俊ちゃん」



 ……鏡花も鋭いよな。いや、もしかして、俺がわかりやすいだけか?



「その通りよ。バーカ」

「…………」



 意地悪な笑顔で俺に言う鏡花。……そうか。やっぱり俺はわかりやすいのか。



「あれ? なんか落ち込んじゃった?」

「あー、いいのいいの。俊輝はね、前にも私たちに同じこと言われて、改めてショックを受けただけだから」

「……相変わらず、俺のことはなんでもわかりますね」

「俊輝のことはなんでも知っているわよ」



 バランスが整っている胸を張って「ふふんっ」とドヤ顔をしてくる樹里。ふーん、だったら……。



「俺の親について教えてくれよ」

「…………それ以外でお願い」



 樹里の顔からはさっきまでの得意げな笑顔が消えて「お願いだから、それだけは訊かないで」という否定的なものに変わった。



『?』



 優稀菜と鏡花に限っては疑問符を頭に浮かべていた。

 ……やっぱりダメか。何度こいつに訊いてもこの回答だった。

 様子からすると知っているらしいんだけど、どうしても教えてくれない。これは歩美にも言えることだが、こいつらは俺の両親のことは一切語ろうとはしてくれない。



「さ、さあっ。そろそろ話題変えよう。ね?」



 空気を変えるために優稀菜がそう提案してきた。たしかにこの空気はよくないな。



『そ、そうだな(ね)っ』



 全員一致で話題を変える。



「そういえばさ、鏡花ってアメリカから来たんだって?」



 樹里がそう訊く。



「ん?……あぁ。ええ、そうよ。もともと留学生だったのよ、わたし」

「……へぇ。じゃあ成績良いんだ、鏡ちゃん」

「まぁ、それなりに――って、どうしたの? 優稀菜?」



 優稀菜は少し落ち込んでいた。……あー、こりゃぁ……。



「優稀菜はさ、成績関連の言葉を聞くと中毒症状に入っちゃうのよ」

「ふーん」



 樹里の説明を受けて鏡花は優稀菜を見て言った。



「成績……良くないんだ……」

「!」

『っくぉうらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!』



 鏡花の言葉に衝撃を受ける優稀菜! そして思いっきり叫ぶ俺と樹里!

 こ、こいつ今、最も言ってはいけないことを言いやがった!



「あっ、ヤバ!」



 自分の失態に気付いた鏡花だったが、時すでに遅し。優稀菜は完全に沈んでしまっていた。頭の上に「ガーン!」の文字が見えるよ。



「……ぐすんっ。だって優稀、数学は途中から『数字ってなんだろう?』って、所謂、椎名○月さん状態になっちゃったし……古典は『昔の言葉なんて興味ねぇよww解読したかったらググ○カスwww』状態になっちゃったんだよ……」

「……なんか、しょうもなくもわからなくもない理由が返ってきたわ……」



 うん。まったくその通りだね。俺も樹里もびっくりだ。まさかこんなところで優稀菜の成績が悪い理由がカミングアウトされるとは思わなかった。

 こんな感じで、昼休みは過ぎて行った。



     ❁ ❁ ❁



「おーい。歩美ー。いるかー?」



 自宅のリビング。

 俺は歩美を呼んだ。



「はい。おかえりなさい。どうしたんですか、兄さん?」

「ふむ。どうだ? そっちの転入生は」

「?……ああ、琴美さんのことですか?」



 へぇ、歩美のクラスに入った女子は琴美っていうのか。



「どうだ? 可愛いか?」



 俺が歩美に訊くと、歩美は苦笑気味に答えた。



「はい。たしかに可愛いですけど、色々な意味で結構ガードは堅いですよ?」

「? というと?」

「いえ、彼女、私のクラスに来たじゃないですか。うちのクラスには双子の兄妹がいる話をしましたよね?」



 ん?……あぁ。



「したな、そんなこと。確か……瀬良兄妹だっけ?」

「はい。そして転入してきた琴美さんの本名は瀬良琴美。瀬良さんたちの義理の妹なんです」

「へぇ……」



 珍しいもんだな、三人全員同い年の兄妹なんて。そういえば、珍しいと言ったら鏡花の名字も珍しいよな。だって「十七夜」と書いて「かのう」って読むんだぜ?……でも、なんでだろう。その名前は最初聞いたとき、どこか懐かしい感じがしたんだ。以前にその名字のひとに逢ったことがある? うーん、まあいいや。



「なるほど。そりゃガード堅いわ」

「でしょう? クラスの男子全員がガッカリしていましたよ。だって、美少女ですから。琴美さん」



 苦笑気味にそう答える歩美。だろうなあ。結構落胆してたんだろうね。



「おまえはモテないのか? 歩美」

「へ?」



 俺がなんとなくそう訊ねてみると、歩美は気が抜けた声を漏らした。



「あ、いや。ほら。おまえもなかなかの美少女じゃないか。だからさ、少しはモテてんのかなぁ、っと思ってさ」



 そう俺が言うと、歩美は顔を真っ赤に染めた。



「あっ。もう、兄さんっ。そういうのは、自分ではあんまりわかりませんっ」



 真っ赤な顔で言う歩美。



「ふーん。そうなのか」



 そういえば、自分の容姿とかは実際、自分自身、よくわからないらしいってどこかのテレビでやっていたような気がする。

 じゃあ、イケメン野郎とか美少女とかは案外、罪作りなひとが多いのかもね。なんか、ムカつくなぁ。でも……。



「ふぅ。よかった~」

「え? なにがですか?」



 安堵の息を吐く俺に不思議そうな顔をする歩美。



「あー。あれだよ、あれ。うん、なんかな」

「なんか、なんですか?」

「うん。なんかなんだよ」



 実際、歩美が俺以外の男に甘えているような描写を思い浮かべてしまって「イヤだな~」と思ってしまった俺である。



「ふふっ。大丈夫ですよ、兄さん。私はどこにも行きませんよ」



 なんていい妹なんだ。お兄ちゃん感激だよ。







             To be continued

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