―第伍章 銀色のトランスフリー―
翌日の二年B組の朝のホームルーム。
『(ざわ…ざわ……)』
クラスメイト全員がざわざわしながら期待の眼差しを放っていた。
「さーて、呼ぶか? おまえら」
『はい!』
雛形先生の言葉に全員一致でそう答える俺たち。
「よし! じゃあ呼ぶぞ? おーい。入って来ーい」
「――はい、失礼します」
淡々として落ち着いた女の子の声が廊下からした。……あれ? おかしいな。どっかで聞いたことがある声だぞ。しかも、かなり最近に。
がらららっ。教室の前扉が開いた。
『おおおおおおおおおおおおっ!』
「!?」
男女問わずに歓喜の声が響き渡った。樹里や優稀菜なんか、めちゃくちゃお目々をランランと光らせている。
しかし俺の方はと言うと、驚きのあまり口をあんぐりさせていた。
転入生は銀色の髪と気が強そうな雰囲気を纏った美少女だった。
「十七夜鏡花です。どうぞよろしくね――って、え?」
少女、十七夜鏡花は俺の姿を確認すると同時に驚きの表情を浮かべた。――ば、バカ! そんなことしたら……。
『?』
ほら見ろ! 俺、クラスの注目の的じゃねえか! しかし、彼女はそんなことお構いなしに俺に指をさして「あー!」と叫んでいた。なんのシチュエーションだこれ。ギャルゲの世界じゃないんだぞ。ていうかこらっ。ひとを指でさしちゃいけません!
「……なにあんた。知り合い?」
怪訝そうに訊いてくる樹里。俺はその迫力に冷や汗を流し、目を泳がせまくりながら答えた。
「……さ、さぁな。人違いじゃねぇのかなぁ?」
「なに言ってんの? 昨日会ったじゃない」
『!?』
首を傾げながら返す銀髪美少女こと十七夜鏡花。
――っ! この娘は! なんて正直……悪く言えば頭の悪いやつなんだ!
自覚はあるのかどうかは知らんけど、おまえはすっごい美少女なんだぞ。そんなやつが転入してきて、知り合いの男子がそのクラスにいるなんて言ったら――ほら見ろ! クラス中がざわめき始めちまったじゃねえか!
「お? 杉並。抜け駆けはいかんぞ? おーい、おまえら。今だけは杉並への暴力を見逃してやらんこともないぞ? くくく……」
「先生は煽らないでください!」
まったく、なんでこういうときに教師として機能しないひとなんだ!
「ねぇ、俊輝……? ちょっといい……?」
「ひぃっ!?」
ゆらりと立ち上がる樹里! 怖い! 怖いよ!
「俊ちゃん……? ちょっとお話しようなの。うふふ……」
「ひぃぃっ!?」
優稀菜が怖い笑顔で俺に詰め寄ってくるぅぅぅぅっ! お、おまえ、普段は名前通り、優しいんだから、その顔、めっちゃ怖いよ!
見れば、クラスの連中全員が同じようになってる! なんてこった! 先生の言葉に集団ヒステリーになってもうた!
「ちょっ――こりゃヤバい!」
俺はホームルームにも関わらずに教室から逃げ出した!
「あっ! 逃げるな! 待てえぇぇぇぇぇぇぇッ!」
『待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!』
樹里と優稀菜を先頭としたクラスの連中全員が俺を追いかけてきた!? ふっざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁッ!
「ハハハハ。これで必然的に決まったな! 十七夜。おまえは今さっき逃げ出したバカの隣で決定だ!」
「いやよ! もう!」
最後に聞こえたのは、笑っている不良教師と抵抗する銀髪バカのそんな会話だった。
To be continued