―第肆章 銀色のピッカー―
「ふぅ、これで全部かな?」
スーパーの店内。
俺は買い物カゴの中に入っている物とメモに書かれている物があっているかどうかをチェックしていた。…………ふむふむ……よし!
「さて、レジ行くか」
俺がレジに行こうとした――そのときだった。
「?」
なんか様子がおかしいおばさんがいた。やけにまわりをキョロキョロしてるし……。あー、もしかして、アレ……か?
念のため、そのおばさんをつけてみる俺。しかし、俺以外にもそのおばさんをつけていたやつが隣にいた。
そいつは少し気が強そうな感じの銀髪の美少女。俺と同い年くらいかな。……胸でかいな。ざっと見で、Eカップと言ったところか? いや、もっと大きいかもしれん――おっと。胸ばっかり見るのは流石に失礼だね。
どこの学校に通っているのかな? 少なくともうちの学園の生徒じゃない。だってあんな美少女がいたら、ランキングに引っ掛かるはずだもん。
「……ねぇ、あんた。気付いてる?」
俺の様子に気付いたらしく気さくに話しかけてくる少女。だから、俺も気さくに返す。
「……ああ。あのおばさんだろ?」
「……気付いているようね。もうそろそろ入れるわよ」
そう言われて、注意深く見ていると、おばさんはカゴから商品を取り出して――バッグに入れた! おいおいおい!
俺はおばさんのとこへ行こうとしたのだが、銀髪少女に腕を掴まれていた。
俺と銀髪少女はおばさんを見失わないように、そして気付かれないように注意しながらおばさんを凝視して小さな声で口喧嘩を始めたのだった。傍から見ればかなりシュールだと思う。
「……なにすんだよ!」
「……あんたこそ、なにしようとしてんの!」
「……あのおばさんを止めるに決まってんだろ!」
「……バカ! あのひとがレジを出たあとに決まってんでしょ!」
「……出たあとじゃ犯罪になっちまうだろ!」
「……もう入れた時点で犯罪よ!」
「……だったら、今行ってもいいじゃねえか!」
「……バカじゃないの! 出てから捕まえた方が確実な証拠になるじゃない!」
「……あぁっ! もういいよ!」
俺は少女の腕を振り払っておばさんのとこへ走った!
「ちょっ! あんた! こらっ!」
やつは後ろでぎゃあぎゃあ騒いでいるが知ったもんか。
「あの、おばさん? ちょっとバッグの中見せてくださいね?」
「……へ? あっ!」
おばさんが気付いた時には俺はバッグの中身をあさっていた。すると……。
「……これ、なんすか?」
案の上、バッグの中からこの店の商品と思われる物が出てきた。思わずそれの値段を見てしまう俺――って、やっす! こんなもんを盗もうとしたのか。病気だな。
「万引きはダメっすよ?」
「まったくよ」
気付くと、隣にさっきの銀髪少女がいた。その目は、さっきまでの俺に話しかけていたものとは違う、かなり冷やかなものだった。
「さて、行きましょうか?」
「ど、どこへ?」
「え? もちろん、ここの店長さんのところに決まってるでしょ? なに言ってんの?」
なんでもないように返す少女の言葉は、つららのように冷たく、鋭く、トゲのあるものだった。しかも、それを当然のように言うもんだから恐ろしい。……まぁ、当然のことなんだけどさ。しかし、俺は――。
「いや、どこへ行かなくていい。行くとしたら、とっとと家に帰んな。目を瞑っててやるからさ」
「……は? あんたなにを言って――」
逃がそうとする俺になにか言おうとした少女に向かって、俺は勢いよく睨みつけた。
「――っ!」
すると、一瞬怯えた表情になり、少女は黙り込んでしまった。……そんなに怖かったか? 今の。
まあいい。俺はそのまま、おばさんに怒鳴りつけた。
「とっとと行け! 早くしないと、本当に連れて行くぞ!」
「は、はひっ! すみませんでした!」
おばさんはそのまま、逃げるように立ち去って行った。
「あっ! ちょっ――あんた、なんで逃がしたの!?」
「まだ、こっから出てねぇんだからセーフだろ?」
詰め寄る少女に平然とそう答える俺。すると少女は激昂した。
「セーフとかセーフじゃないとかの問題じゃないわよ! 大体あんたはね――」
「――おっと。店内がざわめき始めちまったな。騒ぎになる前に退散しますかね。ほら、ここで叫んでいると迷惑だぞ美少女。外、出ようぜ? あっ、でも少し待っててくれ。俺も買い物をしに来たんだ」
「ちょっ! あ、あんた、何様のつもりよ! し、しかも、び、美少女だなんて――ってもう! 待ちなさいよ!」
少女はまだぎゃあぎゃあ言ってきたが、無視してレジで会計を済まして俺は外に出た。……なんか顔、赤くなってねぇか、おまえ?
❁ ❁ ❁
「さてと、なんの話だったっけ?」
帰り道。俺は家へ向かって歩きながら隣にいる少女にそう訊くと、少女は憤慨した。
「『なんの話だったっけ?』じゃないわよ! あのおばさんを見逃したことよ!」
「……あー、あれか?」
「なに気楽に言ってんの!? まったく、あんたは優しすぎんのよ! なに? あれは仏心かなんかかしらね?」
皮肉っぽく言ってくる少女。
「まあ、そんなもんじゃね?」
「軽く答えないで! あーいうのはね、きっちり更生させるべきなのよ! つまらない仏心はかけちゃいけないのよ!」
軽く流そうとする俺に、真面目にズバズバ言ってくる少女。……まったくの正論です。本当にすみませんでした……。
「いーい! もうあんなことしちゃダメっ! 自分の為にもあっちの為にもならないんだから――ゴホッ、ゲハッ!」
少女は説教のし過ぎで喉が嗄れてしまって、ゴホゴホさせていた。あーあ、やっぱり、買っといて正解だったか。
俺は買い物袋から買っておいたウーロン茶を手に持ちながら少女に声をかけた。
「ほら。これ飲め、これ」
「ゴホッ……え?……でもこれ……」
驚いて困った表情になってしまう少女。……へぇ、こんな表情も作れるのか。ちょっと可愛いな。
「安心しろ。こんなこともあろうかと買っただけだ。必要ないなら俺が飲むが?」
「……ふんっ。殊勝じゃない」
少女は毒づきながら俺の手からウーロン茶を奪い――もとい、受け取ってごきゅごきゅ飲んでいた。……なんか顔、また真っ赤になってねえか? どうした? 風邪か?
まぁ、そろそろふざけるのはやめて謝ろう。
「まあ、しかし。なんにしても俺は悪いことしちゃったわけだ。すまない」
「まったく。それはわたしじゃなくて店のひとに言いなさいよ。まぁ、もうあんなことはしないこと。でも……」
「でも?」
どうした? こいつにしてはらしくない。今までズバズバ言ってたのに。
「……な、なんでもないっ。じゃあ、もう言うことないからっ。バイバイっ」
ますますお顔が真っ赤になった少女は、そう言ったあと突然走りだした。
「お、おいっ!」
俺が話す暇もなく少女は走って行った。……足速いなぁ。以前見た陸上部のエースよりも速いんじゃないか?
そういえば、あいつなんて名前だったんだろう? てか、なにをしにあいつはスーパーにいたんだ? なにも買ってなかったような気がするが……。
「ふーむ。謎だ」
ひとりでむんむんと考えながら歩いていると、気がつけば俺は家の前に着いていた。時間って経つと早いもんだね。
なんだかんだで俺は家に帰宅したのであった。
To be continued