―第壱章 銀色のエブリディ―
「……ふぅ、終わったー」
六月のある日。
俺、杉並俊輝はおそらく高校二年生になって初の解放感に浸っていた。
なにせ今日は学力試験。
成績にはなにも関係は無いけど、大学進学には必要という非常に迷惑かつ厄介な試験だ。しかも、その一ヵ月後に期末テストってどういうこったい。
「学力試験終了時にここまで解放感に浸っているのって初めて見たわよ。俊輝」
背伸びしていた俺の後ろで、溜め息混じりに苦笑している女子は芹沢樹里。
黒いストレートヘアの美少女なのだが、中身が変態の腐女子という非常に残念なやつだった。彼女が言うに俺の小学生からの幼馴染……らしい。……あんまり覚えてないんだよな、昔のこと。
「うるせえなぁ、樹里。気持ちはわかるだろ?」
「うん、まぁね。――テストが終わったし、これでやっと安心してプレイできるという解放感なら――」
「うん。全然わかってないね」
笑顔でツッコム俺。しかし、こんなでも成績は著しい樹里さんである。なぜだ?
「あははっ。今日も俊ちゃんとジュリちゃんの漫才は絶えることはないね」
テンションが高い声。それは樹里の隣の席の女子のものだった。
彼女は加賀美優稀菜。
去年も一緒のクラスだった長いポ二テの美少女なのだが、中身の実態は樹里とまったく同じの変態腐女子。
去年に何度か彼女の家に上がらせてもらったのだが、彼女の部屋はギャルゲとエロゲ、さらに某弾幕系シューティングゲームなどで溢れかえっていた。これはひどい。そして時折、俺にそのゲームを貸し与えてくる。……とっても面白くて感服している俺だった。
「俊輝、優稀菜。せっかく試験が終わったんだからさ、どこかに遊びに行かない?」
俺たちに訊いてくる樹里。たしかに。これから暇だしなぁ……。
「俺はオッケーだ」
「うーん……優稀もとくにはないの」
「というわけで、樹里。どこか宛てはあるのか?」
「そうねぇ……」
樹里はたっぷり長考して、俺に自信満々に告げた。
「よし! じゃあさ、この近くに新しくできたVIP専用の店でも――」
「うん、わかった。優稀菜、おまえはどこに行きたい?」
「…………」
俺に無視された樹里はがっかりしているが知ったこっちゃない。優稀菜もいるんだぞ。そんなところに行けるかい。
「うーん、そうだなぁ……」
優稀菜も樹里と同じようにたっぷりと長考して、俺に自信満々に告げた。
「そうなのっ! このまえ駅前に十八禁専門の――」
「はいはいわかったよ。さーて、いいところないかなぁ……」
「…………」
優稀菜も樹里と一緒にがっかりしているがそんなこと俺の知ったこっちゃない。こいつらに意見を出させようとした俺がバカだったんだ。
さて、本当にどこへ行こうかな――。
「ねえねえ、もうふざけないから私にも意見出させて~」
「ゆ、優稀も~」
真面目に考える俺に自分も意見を出したいのか、樹里と優稀菜は懇願してくる。
「……最初からそうしなさい」
「「はーい」」
とっても良い子のお返事が返ってきたよ。
まあ、それから樹里も優稀菜も真剣になったらしく色々な意見が出てきて、最終的にどこに行くのかを決めていた俺たちだった。
丁度そのとき、担任の雛形景先生が教室に入ってきた。
「おーい、少し連絡事項がある。まあ、気楽に聞いてくれ」
先生がホームルームを始めても賑わっている教室は静まり返らない。
しかし、そんなことも気にせずに先生は話し始めた。
「明日、この二年B組に転入生が来るぞ」
『……………………』
さっきまで賑やかだった教室は、先生の言葉を受けて一気に静まり返り、静寂に包まれた。俺を含めたクラスのやつらの顔が一気に固まる。…………。
「連絡事項は以上。気をつけ、礼。さいなら」
ひとりでさっさと終礼をすまして、教室から出ていく先生。
……。…………。………………。……………………って。
『いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!』
クラス全体が揺れた!
「ちょっと、先生どういうことですか!?」
「ていうか先生いねぇ!」
「あっ、もうあんなとこに!」
「追っかけろ!」
「皆の者! 出会えい! 出会えぇぇぇい!」
『おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!』
こうして、俺のクラスの連中が先生を御用するべく、追っかけて行ってしまい、教室に残ったのは俺と樹里、優稀菜の三人だけになっていた。…………。
「……なんか行くところが、自然と決まっちゃったわね」
『そうだな(ね)』
「さぁ、行きましょう! 生徒会室へ!」
樹里がそう高らかに告げた瞬間、俺たち三人は生徒会室にダッシュしていた。
To be continued