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幸福論  作者: 唇タラコ
2/2

担任

ひとり、私のクラスに自己主張に乏しい生徒がいるという。前年度の担任曰く、少しぼーっとする頻度が多いことと、挙手しないことを除けば至って普通の子らしい。勉強はできるらしいので、たまに問題の答えを聞いてみてもいいかもしれない。

 そんなことを考えながら歩いていると、気づいたら教室のドアの前に立っていた。3‐Aとでかでかとドアに紙が貼っていた。笑顔を作り、勢いよく挨拶しながらドアを開けた。

「おはようございまーす!みんな席についてくださーい!」

 生徒たちの視線が一瞬こっちを向いた後すぐに各々席に座った。最初から座っている子がひとり。あの子が例の子だろうか。教卓からは大体の子の顔が見れる。背丈の大きい子や小さい子、よく外で遊んでることが見て取れるくらい焼けてる子や、普段は部屋で本を読んでるんだろうなという子、一人として同じ子はいない。が、今日は入学式ということもあり、みんなフォーマルな服を着ている。それと女の子は髪をおしゃれに編んでいて、とてもかわいらしい。

「皆さん初めまして!私の名前は佐々木舞華っていいます!佐々木先生って呼んでね!」

 黒板に大きく佐々木先生と書き、横にルビを振った。子供たちは担任が変わるのは二回目という事もあり、新しい先生に対して大きな興味こそあれど、不安がる様子はあまりなかった。ある子は前の席の子の横から上から覗こうとしたり、またある子は横の子とこそこそ何かを話している。

 そんな中で、ひとり。たったひとり、何の様子も見せない子がいる。きっと例の子だろう。一番窓際の私から見て手前の席だ。そこの席は、教卓から正面を見据えると死角になる。控えめな性格なんだろう、その子はぼーっと私を見ており、目が合うと途端にはにかんだ。その様子はとてもかわいかったが、少し心配でもあった。ああいう子はいじめられがちだからだ。少し気を配ってやる必要があるだろう。


 この時点で私はその子のことを控えめな子と認識していた。他人に興味がないという可能性を考えなかったわけではない。が、そもそもそうだとしても何ら問題はなかったし、自己紹介を終え、配布物の確認やクラス写真撮影後、帰りの会をし終わると友人と楽しそうに話していたので、その線はないと思った。

 その日はそれで生徒たちとは別れた。みんな親御さんが迎えに来ており、大量の教科書を重そうに持って帰っていた。それはあの子も例外ではなかった。仲のよさそうな親御さんだった。子供との関係も良好そうで、父親に乱暴に頭をなでられて、うれしそうにしていた。

 次の日も、そのまた次の日も、特に大きな事件は起こらなかった。生徒同士はもちろん、私も担任としてうまくやれていた。だが、そのまたまた次の日、要するに入学式から三日後のことだ。

 その日は朝から雨の日だった。小学三年生ということもあってか、雨でもクラスは元気いっぱいだ。職員室の中からでも会話が聞こえる程度には。かくいう私は、じめじめしている空気が苦手で、雨の日は鬱々としてしまう。が、外から聞こえてくる子供たちの声はそんな空気を吹き飛ばしてくれる。

 教室に入り、生徒たちを見る。みんなの会話は雨で長靴を履きたくないだの、体育が何に変わるかだのを楽しそうに話している。例の子はというと、相変わらず友達と楽しそうに話しており、雨のことなどまるで、降っていないかのように普段通りの態度を貫いていた。あまり感情の起伏がない子なのだろうか。などと考えていると、日直当番の子が大きな声で起立!と叫んだ声でハッと我に返り、前を向いた。

「礼!おはようございます!着席!」

「今日から掃除の時間が始まります!班分けは後ろの黒板に貼っているので、みんな自分で見てください!それでは朝の会を終わります!」

 掃除の時間が始まるという事で、男の子の何人かはえー。と文句を垂れていた。それに対し女の子はみんな何も言わない。例の子は、ぼーっと窓の外を見ていた。

 今日の掃除場所は私の担当であり、今日の昼休み、一緒に教室の掃除をする。真面目に授業にも取り組んでいるらしく、特に苦労はしないだろうと思っていたが、とんでもなかった。いや、確かに掃除はすぐに終わったのだ。指示はちゃんと聞いてくれるし、自分でも考えて行動する。きっとほかの先生でもべた褒めだろう。だが、私は見てしまったのだ。彼の友達を見る目を。

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