第9話 藤沢組、初めての“商売”
藤沢邸が完成し、文明の風が吹き始めた藤沢組。
家は建ち、風呂は湧き、道具は揃い、
ゴブリン達は働き、ヤスは相変わらず暴走気味。
だが――文明が進めば進むほど、
“管理”という新たな問題が浮かび上がる。
食料の分配、道具の貸し出し、労働の割り振り、
そして移住者の増加によるトラブル。
文明の光が強くなるほど、影も濃くなる。
文太は組長として、
初めて“組織運営”という壁にぶつかることになる。
藤沢組が“集落”から“街”へ変わるための試練が始まる第9話
藤沢邸が完成してから、三日が経った。
俺――藤沢文太は、
朝日が差し込む自室の布団の上で、ゆっくりと伸びをした。
「……文明って、最高だな」
柔らかい布団。
雨風をしのげる家。
湧き水を使った風呂。
そして、昨日の夕飯は文ちゃんライス。
(異世界に来てから、初めて“人間らしい生活”してる気がする)
だが――
そんな穏やかな朝は、長く続かなかった。
「組長ーーー!!」
外からヤスの叫び声が響いた。
(……嫌な予感しかしねぇ)
俺は布団から飛び起き、外へ出た。
✦ヤス、また暴走する
「どうしたヤス! 何があった!」
「組長! 大変っす! 食料が足りなくなるっす!」
「……は?」
ヤスは真剣な顔で言った。
「最近、みんな進化して食う量が増えたんすよ。
ムキムキになった分、腹も減るらしくて……」
確かに、進化したゴブリン達は筋肉が増えた。
その分、食う量も倍増している。
「このままだと、狩りだけじゃ追いつかないっす!」
「……マジかよ」
俺は頭を抱えた。
(文明化したらしたで、問題が増えるんだよな……)
ミドジが駆け寄ってきた。
「組長、食料問題は深刻なのですじゃ。
このままでは、冬を越せませぬ」
「冬……?」
そうだ。
この世界にも季節がある。
(冬に食料不足とか、普通に死ぬやつじゃねぇか……!)
ヤスが拳を握った。
「組長! ここは“商売”を始めるべきっす!」
「商売……?」
ヤスは胸を張った。
「そうっす! 金を稼いで、食料を買うんすよ!」
「いや、金って……どこで……?」
「街っすよ、街!」
ヤスは当然のように言った。
「この世界には“冒険者ギルド”とか“商人ギルド”とかあるらしいっす。
そこに行って、なんか売るんすよ!」
「なんかって……」
(なんかってなんだよ……)
ミドジが手を挙げた。
「組長、我らの作った木材や道具は、街でも売れるはずなのですじゃ!」
「道具……?」
俺は建築現場を見た。
ノコギリ。
鉋。
釘。
ハンマー。
全部ヤスが出したものだ。
(……これ、普通に高級品じゃねぇか?)
ヤスがニヤリと笑った。
「組長、これ全部“文明の利器”っすよ。
街の連中からしたら、喉から手が出るほど欲しいはずっす!」
「……マジか?」
「マジっす!」
ミドジも頷く。
「組長、これは大きな商機なのですじゃ!」
(商機……?)
俺はゴクリと唾を飲んだ。
(……これ、もしかして本当に稼げるんじゃねぇか?)
✦文太、商売を決意する
「よし……」
俺は拳を握った。
「藤沢組、初めての“商売”を始めるぞ!」
「おおおおおおお!!」
ゴブリン達が雄叫びを上げる。
ヤスが俺の肩を叩いた。
「組長、まずは街に行って、相場を調べるっす!」
「街……か」
異世界の街。
人間の街。
文明の街。
(……正直、怖い)
だが――
ここで動かなきゃ、冬に全員飢え死にだ。
「ミドジ、準備をしろ!
ヤス、売り物をまとめろ!
ミドリ、留守の間の管理を頼む!」
「了解なのですじゃ!」
「任せてくださいっす!」
「組長、気をつけてくださいね!」
俺は深呼吸した。
「よし……行くか」
こうして――
藤沢文太は、異世界で初めて“商売”を始めるため、街へ向かうことになった。
(……頼むから、平和に終わってくれよ……)
だが、この時の俺はまだ知らなかった。
――街で待ち受けている“とんでもない騒動”のことを。
読んでくれてありがとう。
第9話は、藤沢組が文明化したことで生まれる
“現実的な問題”を描いた回だった。
文明は便利だけど、
便利になればなるほど管理が必要になる。
文太はその現実に直面し、
組長としての責任を少しずつ自覚していく。
ヤスのチート能力で一気に文明化したけど、
その後の運営は結局“人の手”が必要。
ここから藤沢組は、
ただのチート集団ではなく“組織”として動き始める。
次回は、文明化した藤沢組に
さらに大きな波が押し寄せる回。
文太の胃痛は悪化するけど、
街は確実に前へ進む。




