第8話 藤沢組、文明を手に入れる
藤沢組が異世界での生活に慣れ始め、
水路作り・畑作り・読み書き教室と、
“文明の芽”が少しずつ形になってきた頃。
そんな中、ヤスのチート能力が本領を発揮し、
ゴブリンの集落は急速に文明化していく。
そしてついに――
文太がずっと欲しがっていた“アレ”が完成するらしい。
文明の夜明けと、文太の感動が詰まった第8話。
藤沢組の未来が大きく動き出す。
数週間が過ぎた。
ゴブリンの集落は――
もはや、あの原始的な村ではなかった。
木材は綺麗に切り揃えられ、
地面には整地された道ができ、
ムキムキゴブリン達が建築現場で汗を流している。
(……いや、これもう文明じゃん)
俺――藤沢文太は、呆然と立ち尽くしていた。
「組長、今日も順調っすよ!」
黄色いヘルメットをかぶったヤスが、胸を張って言う。
(なんでお前だけそんなに馴染んでんだよ……)
ヤスの能力――
“欲しいと思った道具が出てくる”
“名前をつけた魔物が進化する”
この二つのチートが、集落を一気に文明化させていた。
(俺、何もしてねぇ……)
いや、文ちゃんライスは作った。
あれは頑張った。
でも、それ以外は……。
「組長、そろそろ“アレ”が完成するっすよ」
「アレ?」
ヤスはニヤリと笑った。
「組長がずっと欲しがってたやつっす」
(……俺が欲しがってた?)
思い当たるものが多すぎて逆にわからない。
家?
風呂?
トイレ?
ベッド?
文明?
(いや、全部欲しいけど……)
ヤスは俺を手招きした。
「組長、こっちっす!」
✦“アレ”の正体
建築現場の奥へ進むと、
ムキムキゴブリン達が何かを囲んでいた。
「組長、完成したのですじゃ!」
ミドジが胸を張る。
「ささ、こちらへ!」
ミドリが俺の腕を引っ張る。
(なんだよ……そんなに引っ張るなよ……)
そして――
俺の目の前に現れたのは。
巨大な木造建築。
丸太を組み、
壁はしっかりと板張り、
屋根は丁寧に葺かれている。
「……家?」
ヤスがドヤ顔で言った。
「組長専用の“藤沢邸”っす!」
「……マジかよ」
俺は言葉を失った。
(すげぇ……普通に住める……いや、むしろ日本の安アパートより良い……)
ミドジが説明を続ける。
「寝室、食堂、倉庫、会議室……
組長のために、全部作ったのですじゃ!」
「会議室いらねぇだろ!」
「一部、組事務所も兼ねてるっす!」
「そうか!」
ミドリが手を挙げた。
「お風呂もあります!」
「風呂!?」
俺は叫んだ。
「湧き水を引いて、薪で沸かす方式です!
ミドリ達が毎日お湯を準備します!」
「いや、そこまでしなくていいから!」
(……いや、でも風呂は嬉しい……)
ヤスが肩を叩いてきた。
「組長、これで文明生活っすね!」
「……お前、ほんとすげぇな」
ヤスは照れたように鼻をこすった。
「へへ……組長のためっすから」
(……こいつ、たまに本当に良い奴なんだよな)
✦藤沢邸、初入室
俺は藤沢邸の扉を開けた。
ギィ……。
中は広い。
木の香りが心地よく、
床はしっかり磨かれている。
(……すげぇ……)
ベッドもある。
布団もある。
机もある。
(文明だ……文明がここにある……!)
俺は思わず涙が出そうになった。
「組長、気に入ったっすか?」
「……ああ。最高だよ」
ヤスが嬉しそうに笑った。
ミドリもミドジも、他のゴブリン達も、
みんな俺の反応を見て喜んでいる。
(……なんだよこれ。
俺、こんなに誰かに尽くされたことなんてなかったぞ)
胸が熱くなった。
✦そして、組長の決意
藤沢邸の前で、俺は深呼吸した。
「よし……」
ヤスとゴブリン達がこちらを見る。
「これから本格的に“藤沢組”を動かすぞ!」
「おおおおおおおお!!」
ゴブリン達が雄叫びを上げる。
「まずは生活の安定だ!
食料の確保、家の整備、道具の管理……
そして、いずれは――」
俺は拳を握った。
「この世界で、でっかいシマを持つ!」
「組長ぉぉぉ!!」
ヤスが泣きそうな顔で叫んだ。
(……いや、そんな大層なもんじゃねぇけどな)
でも、悪くない。
異世界で、
ヤクザでも、
チンピラでも、
落ちこぼれでも。
――やり直せる。
そう思えた。
読んでくれてありがとう。
この回は、藤沢組が初めて“文明の匂い”を手に入れる重要なエピソード。
文太のために家を建てるゴブリン達、
照れながら胸を張るヤス、
そして藤沢邸を見て涙ぐむ文太――
このあたりは藤沢組の“家族感”を強く出したかったところ。
ここから藤沢組は、
ただの集落ではなく“組織”として動き始める。
文明が進むほど、文太の胃痛も進むけど、
それでも前に進むのが藤沢文太。
次回は、文明化した藤沢組に新たな問題が訪れる回。
文太の苦労はまだまだ続くけど、
それでも彼は前に進む。




