第六話 到着
雨の夜に死んだはずの藤沢文太とヤス。
気がつけば、そこは見知らぬ森――そして、ゴブリンの少女ミドリとの出会い。
今回の第6話では、
文太とヤスがついにゴブリンの集落へ足を踏み入れる。
文明レベルは原始的。
文化も価値観も違う。
そして何より、
“人間がゴブリンの村にいる”というだけで命が危ない世界。
ビビりながらもタバコに火をつけた文太。
その火が、まさかの“魔法扱い”されるという異世界あるある展開に。
さらにヤスの暴走、ミドジの登場、
そして“藤沢組”という謎の組織が勝手に誕生し始める……。
文太の不安と、ヤスの無自覚チートが交錯する、
異世界生活の第一歩をお楽しみください。
森を抜けた瞬間、視界が開けた。
粗末な木の柵、土を固めただけの門、木の枝と蔓や葉っぱで出来たテントと思われるものが並ぶ小さな集落。
「……ここが、集落?」
藤沢は思わず足を止めた。
湿った土の匂い、焦げた煙の香り、遠くで子どもの声。
だが――どこか違和感がある。
(……静かすぎる)
風の音だけが耳に残る。
まるで、息を潜めてこちらを観察しているような空気。
「兄貴、着いたっすよ」
ヤスが振り返って笑う。
その横には、昨日助けたゴブリン少女・ミドリが手を振っていた。
藤沢は胸を撫で下ろした。
(……よかった。罠とかじゃねぇよな)
――そう思った矢先。
ガサッ。
草むらから複数の影が飛び出す。
小柄で緑色の肌、腰に布を巻いただけの原始的な姿――ゴブリン達だ。
「うわっ……!」
だが、彼らは武器を構えず、ただ藤沢をじっと見つめていた。
その目は敵意でも恐怖でもなく、どこか“観察するような光”。
(……なんだよ、この視線)
ヤスは気にした様子もなく歩き出す。
「兄貴、行きましょう」
「いや、行きましょうじゃねぇよ……」
そう文句を言いながらも、藤沢はミドリに手を引かれ、集落の奥へと進んでいった。
✦カルチャーショックと“魔法使い”疑惑
ミドリとヤスに案内される途中、ふと気づく。
「あれ、ヤスは?」
振り返ると、ヤスもミドリもいない。
代わりに、半裸のゴブリンがじっとこちらを見ている。
(やめてよ……怖ぇよ……)
不安を紛らわせるため、藤沢はタバコに火をつけた。
シュボッ。
その瞬間――
「あーーっ!!」
「へっ?!」
ゴブリンが叫び、藤沢はタバコを落としそうになる。
「あなたは、魔法使いですか?!」
「は?」
ゴブリンは目を輝かせていた。
「指から火を出しておられました!」
(……ライターのことかよ)
藤沢はライターを見せて説明するが、ゴブリンは完全に尊敬の眼差し。
「す、凄いです……!」
(……悪くねぇな、この感じ)
そこへヤスが戻ってくる。
「なにやってんすか?」
「いや、こいつが勝手に……」
そう言いかけたところで、ミドリと、見知らぬジジィゴブリンが現れた。
「フジサワ兄貴、仲間を助けていただいて、ありがとうございますじゃ」
「え、兄貴?」
気づけば藤沢は“兄貴”扱いされていた。
✦宴、そして“藤沢組”誕生の誤解
ミドジ(ジジィゴブリン)に案内され、藤沢とヤスは宴の席に座らされる。
ゴブリン達が集まり、ミドジが大声で紹介を始めた。
「ミドリを救っていただいた上に、 名前までつけていただいた、この御方こそ偉大なるフジサワ兄貴!」
(いや、名前つけたのヤスだろ……)
料理が並び、酒が振る舞われる。
味は薄いが、腹は満たされ、酒も効いてきた。
「ところでさ、なんで俺を兄貴って呼ぶの?」
酒を注ぎに来たゴブリンに聞くと――
「村は藤沢組のものになったって、村長が!」
「……は?」
藤沢は盃を落とした。
ヤスの首根っこを掴む。
「おいヤス! 何した?!」
「いやぁ、守ってやるからみかじめ払えって言ったら、金ないって言うんで。
可哀想だから藤沢組に入れてやったんすよ」
(……こいつ、何言ってんだ?)
さらにゴブリンは笑顔で言う。
「奴隷になるって事ですよね!」
「……」
(……もう無理。疲れた)
酒が回り、藤沢はそのまま倒れた。
✦翌朝、進化したゴブリン達
目を覚ますと、見知らぬムキムキの男ゴブリンと、ムチムチの女ゴブリンがいた。
「……誰?」
「ミドリです、兄貴!」
「ミドジですじゃ!」
(進化してるぅぅぅ!!)
ヤスの能力――名前をつけるとゴブリンが進化する。
それを知った藤沢は混乱しつつも、妙な高揚感を覚える。
✦武装冒険者の襲撃
そこへ叫び声。
「冒険者が来たぞー!」
武装した人間達が集落に乱入してきた。
「殺れ!」
完全に敵意むき出しだ。
藤沢は震えながらも叫ぶ。
「ミドジ! 戦える者を集めろ! ミドリは避難だ!」
ヤスが飛び出し、武装した人間達を次々と転ばせ武器を奪いゴブリン達に渡していく、そうして次々武装解除させていった。
武器を手に人間達と対峙するゴブリンとヤス。
ムキムキのゴブリンを目の前にした敵は完全に戦意を喪失した。
「お、覚えてろ!」
捨て台詞を吐いて敵は逃げ出した。
「俺達の勝利だ!」
ゴブリン達が雄叫びを上げる。
藤沢は呟いた。
「……俺が組長か」
✦藤沢組、誕生
その日、ヤスは全ゴブリンに名前をつけ、全員が進化した。
藤沢組
- 組長:藤沢文太
- 若頭:ヤス
- 若頭補佐:ミドジ、ミドリ
- 構成員:ゴブリン住民(総勢40名)
藤沢は決意する。
(……こいつらに、豊かで文化的な生活をさせてやる)
そして――
「ウヒョヒョヒョーー!!」
藤沢の高笑いが集落に響き渡った。
ここまで読んでくれてありがとう。
文太はタバコの火で“魔法使い扱い”され、
ヤスは勝手に“藤沢組”を名乗り、
ミドジは進化してムキムキになり、
ミドリは可愛いまま懐いてくる。
気づけば文太は、
ゴブリン40名を抱える組長候補になってしまった。
本人的には不安しかないが、
周囲は完全に“カリスマ組長”として扱ってくるという地獄。
次回は、
ヤスのチート能力が本格的に発動し、
ゴブリン集落が文明化し始めるという、
異世界ヤクザコメディの加速回。
文太の胃痛は悪化し、
ヤスの暴走は加速し、
ゴブリン達はどんどん進化していく。
そして――
“藤沢組”が本当に動き出す。
次話もよろしくどうぞ。




