第2話 金髪のバカと、教育係
雨の夜、鉄砲玉として震える藤沢の脳裏に浮かんだのは――
一年前の、最悪で最高な“出会い”だった。
湿った畳、チカチカする蛍光灯、
そして、金髪のバカ。
この日、藤沢は突然“教育係”を押しつけられ、
胃痛と混乱に満ちた日々が始まる。
だが、この金髪の問題児が
後に“異世界での相棒”になるとは、
藤沢はまだ知る由もなかった。
◇◇◇
■一年前 ― 雨の夜に思い出す、あの日のこと
藤沢は雨の中、壁にもたれながら目を閉じた。
冷たい雨が頬を叩く。
(……あれは、一年前のことだ)
湿った畳の匂い。
チカチカと点滅する蛍光灯。
タバコの煙が薄く漂う、あの事務所。
――そこから、全てが始まった。
◇◇◇
事務所の扉が乱暴に開いた。
「おい、藤沢ァ!」
年下の兄貴分・佐久間がズカズカと入ってきた。
背は低いが、目つきが鋭い。
いつもイラついているような顔だが、妙に人情深いところもある。
ただし、藤沢に対しては容赦がない。
「今日からコイツに色々教えてやれ」
佐久間が肩を掴んで前に突き出したのは、
金髪でだらしない格好の若いの。
「ちす、ヤスっす」
気の抜けた挨拶。
藤沢は眉をひそめた。
佐久間は煙草をくわえたまま、藤沢を睨む。
「お前、暇だろ。礼儀から叩き込んどけ。
……わかったな?」
その声は低く、刺すように短い。
藤沢は逆らえない。
「……はい」
佐久間は踵を返し、
「頼んだぞォ、藤沢ァ」
とだけ言って去っていった。
事務所に静けさが戻る。
雨の音だけが遠くで聞こえる。
藤沢はヤスを見た。
「俺は藤沢だ。まず灰皿片付けるから手伝え」
「うぃーす」
ヤスは灰皿を持ち上げた瞬間――
ガシャーン!
「兄貴ぃぃぃ! 手が滑ったっす!」
「……お前、今日から地獄だぞ」
藤沢の胃がキリキリと痛んだ。
(こいつ……絶対に俺の寿命縮めるタイプだ)
だが、この金髪のバカが、
後に“異世界での相棒”になるとは、
この時の藤沢はまだ知らない。
◇◇◇
雨の音が現実へと引き戻す。
(……ヤス。お前との地獄の日々は、ここから始まったんだよな)
藤沢は小さく笑った。
雨の中で、ほんの少しだけ肩の力が抜けた。
ここまで読んでくれてありがとう。
藤沢は教育係にされ、
ヤスは灰皿を割り、
佐久間は相変わらず怖い。
この日から藤沢の胃痛は本格的に始まり、
ヤスのバカは本格的に加速していく。
次回は、さらに地獄が深まる“砂糖事件”。
藤沢の人生は、まだまだ下り坂だ。




