第16話 黒牙団、報復
黒牙団の偵察部隊を撃退した藤沢組。
だが、それは“本隊”を呼び寄せる結果となった。
黒牙団――
周辺の集落を力で支配する、
残虐で知られる武装集団。
その本隊が、
ついに藤沢組へ向けて動き出す。
文明を築き始めた藤沢組にとって、
これは初めての“本格的な戦い”。
文太は組長として、
ヤスは相棒として、
ゴブリン達は仲間として――
守るべきもののために立ち上がる。
藤沢組 VS 黒牙団、本格開戦の第16話
黒牙団の偵察部隊を撃退してから、三日後。
集落は一見平和だった。
畑ではゴブリン達が働き、
長屋の建設は順調に進み、
ミドリは子供達に読み書きを教えている。
(……平和すぎる。逆に怖ぇ)
俺――藤沢文太は、
集落の入口でタバコを吸いながら空を見上げていた。
「組長、またサボってるんすか?」
ヤスが背後から声をかけてきた。
「サボってねぇよ。見回りだよ見回り」
「タバコ吸いながら見回りって、サボりじゃないっすか?」
「うるせぇよ」
(こいつ、最近ツッコミが鋭くなってきたな)
そんな時――
「組長ーーー!!」
ミドジが全力で走ってきた。
「またかよ……今度は何だ?」
ミドジは息を切らしながら叫んだ。
「黒牙団の……“本隊”が……こちらに向かっているとの報告が!」
「本隊ィィィィィ!?!?」
ヤスが目を輝かせる。
「組長! 本番っすよ本番! 絶対強いっすよ!」
「なんで嬉しそうなんだよお前は!!」
ミドジが続ける。
「敵は……百名以上とのことですじゃ!」
「百!? 多すぎだろ!!」
(偵察 → 本隊
なんで段階的に強くなってくんだよRPGかよ!!)
ヤスが拳を握る。
「組長、俺がやります!」
「ダメだ!!」
俺は即座に怒鳴った。
ヤスがビクッとする。
「な、なんでっすか……?」
「お前の能力、なんか……こう……
“嫌な感じ”がするんだよ!!」
「えぇ……?」
ミドジが真剣な顔で言う。
「組長の勘は当たるのですじゃ。
ここは慎重にいくべきかと」
ヤスは渋々頷いた。
「……わかりましたよ。
じゃあ、能力は使わずに戦います」
(よし……これで少しは安心だ)
✦黒牙団、本隊襲来
その日の夕方――
「敵襲ーーー!!」
見張りのゴブリンが叫んだ。
俺達は急いで集落の入口へ向かう。
そこには――
黒い鎧を着た男達が、
まるで黒い波のように押し寄せていた。
「ひぃぃぃぃ!! 多すぎだろ!!」
ヤスがニヤリと笑う。
「組長、燃えてきたっす!」
「燃えるな!!」
黒牙団の先頭に立つ男がいた。
身長二メートル近い巨漢。
肩には黒い狼の毛皮。
背中には巨大な戦斧。
「俺は黒牙団頭領――“黒狼のザルド”だ」
(名前からして強そうなんだけど!?)
ザルドは俺を睨む。
「弟を倒したのは……貴様か?」
「いや、倒したのはヤスだよ」
「組長、売らないでくださいよ!」
「だって事実だろ!」
ザルドは戦斧を構えた。
「弟の仇……
ここで全員殺す」
(あー……完全に殺る気だこれ)
ヤスが前に出る。
「組長、俺がやります!」
「お前は後ろで待機!!」
「えぇぇぇぇぇ!!?」
ミドジが槍を構える。
「組長、我らが先陣を切るのですじゃ!」
「頼んだぞ!」
✦藤沢組 vs 黒牙団 本隊戦
「突撃ーーー!!」
ミドジ率いるムキムキゴブリン達が地面を揺らしながら駆け出す。
黒牙団も怒号を上げ、黒い鎧がぶつかり合う金属音が空気を震わせた。
次の瞬間――
ガキィィィィン!!
槍と剣が交差し、火花が散る。
ムキムキゴブリンの一体が黒牙団の剣を弾き飛ばし、逆に拳を叩き込む。
ドゴォッ!!
黒牙団の男が地面を転がる。
だが、すぐに別の黒牙団が横から斬りかかる。
「ぐっ……!」
ゴブリンが槍で受け止めるが、刃が槍の柄を削り、木片が飛び散った。
(やべぇ……本隊、偵察とは比べ物にならねぇ!)
後方でヤスがウズウズしている。
「組長、行かせてくださいよぉ!」
「ダメだって言ってんだろ!!」
前線では、ミドジが三人を相手にしていた。
「ぬぉぉぉぉ!!」
ミドジの槍が唸り、黒牙団の一人の肩を貫くが、別の男が背後から斧を振り下ろす。
「ミドジ、後ろ!!」
俺が叫ぶより早く、ミドジは地面を蹴って横に転がった。
ズドォォン!!
斧が地面にめり込み、土煙が上がる。
ミドジは転がりながら槍を投げつけた。
シュッ!
槍は黒牙団の男の兜をかすめ、頬に浅い傷を刻む。
(クソっ!おしい)
「ちっ……!」
男が舌打ちし、再び斧を構える。
(やべぇ……ミドジでも押されてる……!)
その時、戦場の空気が一変した。
ザルドが前に出たのだ。
「雑魚共が……どけぇ!!」
戦斧を横薙ぎに振るう。
ブォンッ!!
空気が唸り、衝撃波のような風圧が走ると、ムキムキゴブリン三名がまとめて吹っ飛び、地面を転がった。
「つ、強すぎ!反則だろ、あんなの」
(やばいやばいやばい)
焦りまくる俺。どうしたらいいんだ?!
「組長! あいつ、マジでヤバいっすよ!!」
「見りゃわかる!!」
(やっぱ、ヤスの温存が間違ってたのでは……ん?
あのヤバい奴が、ゆっくりと俺の方へ向かって歩いてきてる!)
地面にめり込む足跡が、奴の重さと筋力を物語っていた。
目の前に来てるからよくわかる。
うん。
殺される!
「次は……貴様だ」
「暴力でどうこうするって、よくないですよ」
俺は必死に時間稼ぎを……
(ちょ、ちょ、ちょっと待って!聞く耳もたずか!)
無言でザルドが戦斧を振り上げやがった!
「組長に手ぇ出すなよコラァ!!」
「ヤスッって危ッ!」
ザルドの戦斧が振り下ろされた。
ゴォォォッ!!
ヤスは素手で受け止めた。
ギィィィィン!!
金属と肉体がぶつかるとは思えない音が響く。
地面が割れ、砂埃が舞い上がる。
「なっ……!?」
ザルドの目が見開かれる。
ヤスはニヤリと笑った。
「組長に手ぇ出す奴は、全員ぶっ飛ばす!」
「すげぇな、お前!」
(デジャヴかと思う展開だが、助かったのでよし!)
「ヤス、頑張れ!全開でいけーー!!」
俺は、走りながら叫んだ。
俺のような普通の人間がいたんじゃ戦いの邪魔になっちまうからな。
嫌な予感とか言ってらんない!だって、死にそうなんですもの。
ヤスがザルドを蹴り、距離をとった。
睨みあう両者。
ザルドが地面を踏み砕きながら前に出る。
その一歩ごとに、地面が沈む。
「貴様……ただの人間ではないな」
「組長の舎弟、若頭のヤスとは俺の事っす、覚えとけデカブツ!」
ザルドが戦斧を振り上げた瞬間、空気が震えた。
ゴォォォォッ!!
ヤスは後ろへ跳び、斧が地面をえぐる。
ズドォォン!!
土煙が爆ぜ、破片が雨のように降り注ぐ。
ザルドは間髪入れず踏み込む。
「逃がさんぞ!!」
戦斧を横薙ぎに振るう。
ヤスはしゃがみ込み、刃が頭上をかすめて風圧で髪が逆立つ。
「おっと危ねぇ!」
ヤスは地面を蹴り、ザルドの懐へ飛び込み、拳を突き上げた。
ドガァッ!!
ザルドの腹に直撃した。
「やったぜ!」
その様子を見ていた文太は勝利を確信し、前に出ようとしたが様子がおかしい……
「効かん!!」
叫ぶザルドの筋肉は、岩のように硬く、ヤスの拳でも倒れなかったからだ。
「ヤス、危ない!!」
ストレートを打ち込んだヤスの上から、ザルドが拳を振り下ろす。
バキィィィィ!!
ヤスは間一髪のところで腕で受けたが、衝撃で地面に膝をついた。
「ぐっ……重てぇ……!」
ザルドは笑う。
「我に拳で挑んでくるとは、大したもんだが、これで終わりだ。
俺の下につくなら、殺さないでやっても良いが?」
「……うるさいっすよ。俺の組長は、藤沢文太、ただ一人なんだよぉぉ!」
ヤスがザルドの拳を振り払い、立ち上がった。
「ならば、死ねぇーーい!!」
ザルドが戦斧を振り下ろす。
ガッ!!
ヤスは刃の“内側”に踏み込み、斧の柄を掴んだ。
「なっ……!?」
予想外のヤスの動きにザルドが驚く。
「お前の武器、重すぎんだよ!」
ヤスは全身の力を込めて斧を押し返していく。
ギギギギギ……!!
筋肉と筋肉がぶつかり合い、空気が震える。
ザルドが怒号を上げる。
「ぬおおおおお!!」
ヤスも叫ぶ。
「うおおおおお!!」
二人の力が拮抗し、地面がひび割れた。
そして――
ヤスが一瞬、斧を押し返した瞬間! ザルドの体勢が崩れた。
「今だ、ヤス!いったれぇぇぇ!!」
文太が渾身の力で叫んだ!
「どりゃああああああああああぁぁぁぁ!!!」
ヤスの拳がザルドの顎を捉える。
ドゴォォォォン!!
ザルドの巨体が宙を舞い、地面に叩きつけられピクリとも動かなくなった。
「頭領が……倒れた……!」
「に、逃げろ!!」
黒牙団の残党が叫び声をあげ、一人、また一人、そして我先にと逃げていったのだった。
ヤスは拳を握ったまま、しばらく動かなかった。
その背中から、妙な“圧”が漂っていた。
(……なんだ? ヤス、今……)
文太の側に来たミドジが小声で言う。
「組長……ヤス殿、今の……人間の力では……」
「……ああ。わかってる」
ヤスが振り返る。
「組長、勝ったっす。楽勝っすよ」
「お、おう」
いつもの笑顔なのに、どこか“影”が差して見えた。
(……なんだ、この寒気)
戦いは終わったはずなのに、
胸の奥に、黒い霧のような不安が静かに広がっていったが、文太は頭を振る。
気のせいだと自分に言い聞かせるように、そして、組を守れた事の方が大事だと思った。
✦勝利の裏で
「……終わったな」
まだ耳の奥で戦いの余韻が鳴っている中、文太は呟いた。
ミドジが胸を張り、鼻息荒く言う。
「組長、今回も見事な勝利なのですじゃ!」
ミドリが駆け寄り、嬉しそうに腕を掴む。
「組長、本当にすごかったです!」
(ああ、俺は全く何もしていないがな……)
ヤスはいつもの調子で親指を立てた。
「いやぁ、組長、お疲れ様です!」
(ん?嫌味なの、それ)
「ヤスのおかげだよ、スゲーな、お前」
「そうっすか?えへへへへ」
ヤスが嬉しそうに照れてやがる。
ホントに可愛い弟分だよ、お前は。
周りは歓声と安堵に包まれているのに、文太の胸の奥だけが妙にざわついていた。
(……なんだ、この引っかかり)
勝利の空気が満ちているはずなのに、背筋に冷たいものが流れる。
言葉にならない不安が、静かに、確実に積もっていくのを文太は感じるのだった。
読んでくれてありがとう。
第16話は、藤沢組が初めて“本隊規模の敵”とぶつかる回だった。
文明化したとはいえ、
藤沢組はまだまだ小さな集落。
黒牙団の本隊は、
その何倍もの戦力を持つ強敵。
この回では、
ヤスの能力の“戦闘面での真価”が描かれ、
文太が組長として“守る覚悟”を固める重要なターニングポイントになっている。
次回、第17話は黒牙団編のクライマックス。
藤沢組の未来を賭けた総力戦が始まる。




