運命の番のフェロモンがホットケーキの匂いだった
なろうラジオ大賞7応募作品です。
運命の番。それは出逢えば互いが惹かれ合い、魂が共鳴するただ一人の相手だと聞く。さながらフェロモンを感じるが如くお互いに会えばわかるのだと。
皆がこぞってそう口にするのだから、そう言うものなのだろう。
そしておそらく今日、俺もその相手と出会えた……のだが。
ガタン、とエレベーターの扉が開く。その瞬間、鼻腔を通り過ぎた香りに全細胞が震えた。
「――これは……」
エレベーターに乗り込んできた女性。
彼女が近寄った瞬間に心拍数は上がった。一方、嗅覚から送られてくる情報は、運命とはかけ離れたものだった。
ホットケーキ。
鉄板の上で焼いている途中の、あの甘い匂い。
生地の焼けた香りと、それに加えてバターの香りまで漂ってくる。
エレベーターという狭い密室にそんな甘い匂いが充満していた。
脳は「運命だ!!」と騒いでいるのに、鼻は「おいしそう!!」と叫んでいる。
なんじゃこりゃ。
「……変に思わないで欲しいんだけど、君を見てから運命を感じてる」
意を決して声をかけると彼女はパッと顔を上げた。その愛らしい眼差しが俺の高揚した心に優しく触れる。
「……私もドキドキしてしまって」
そういう彼女は可愛らしい。しかし、その声を聞いている間も、脳内では「好き!」と「おいしそう!」という二つの叫びが渦を巻いていた。
「あの……この匂い、もしかして」
鼻をヒクつかせた彼女を見て、俺は確認するように言葉を紡いだ。
「ホットケーキですよね」
「やっぱり!? よかった、私だけじゃなくて……」
俺もその言葉を聞いて安堵した。
それにしてもだ。運命の番と言うのだから、もっとこうロマンチックな香りだと思っていたのに。
「ひとまず、連絡先を交換しませんか」
先に思考を切り替えたらしい彼女の提案で、俺たちは名を名乗り、連絡先を交換した。
そして、エレベーターを降りる際、二人同時に口を開いた。
「このままデートしませんか」
「お腹空きましたね」
俺の運命はニコリと笑って続けた。
「初デートは……カフェかしら」
その彼女の愛らしい顔に、ロマンチックではなくても悪くはないかと思ってしまう。
「美味しいお店にいきましょうか」
彼女と末長く共にいられる予感を感じながら、俺は付近のカフェを調べるのだった。
1000文字、難しかった……
よろしければ★評価、ブクマで応援いただければとても嬉しいです!
感想も励みになっております。
ここまでお読みいただきありがとうございました!




