迷宮にて
「っつぅ……」
崩落に巻き込まれて痛めた足をひきずって、壁へともたれかかった。
「これは、やっちまったか?」
落ちた先は通路の行き止まり、反対側は瓦礫で埋まってる。
所持してる魔石は……小型が3つ。
魔力が漏れ出していく感覚を確かめる。
怪我は……あ〜っと……。
ん、持って半日だな。
「お久しぶりですね」
救助が来るまで少しでも体力を節約しようと閉じていた目を開くと、以前一度だけ顔を合わせたことのある神が目の前に立っていた。
シュロースアニアソフェニート。
将来キィが生み出すはずの刻の神、らしい。
「お前が出てきたってことは、そういうことか」
「えぇ、助けは間に合いません。よって契約の履行は必要ですか?」
自分が滅ぼしかけた変化の神キィ、その魔力?神力?だかの通り道になったことで自分の体はキィとの親和性が非常に高くなったらしい、それこそ壊れた器の代用にできるほどに。
かつて刻の神と交わした約束。自分が死んだ後に身体をキィの器として差し出せと。代わりに刻の神が一度だけなんでも願いを叶えてくれるという。
こいつはここで自分を助けてくれる気で来たんだろうが……。
色々と考えを巡らせる。
神を吸い上げたせいで壊れた魔力の回路。残りの寿命。
……あいつらが独り立ちするまではなんとか持つと思ってたんだけどなぁ。
残り短い時間のために「何でも」の権利を使うのはどう見てももったいない。
「よし、じゃぁ約束を果たしてもらおう。何でも願いを叶えるっていうその権利、自分の子供達に譲らせてくれ。もちろん一度だけっていう約束を違えるつもりはない。アーチかシエルか、どちらかがどうしようもなく、神様に縋るくらい強く願った時に、叶えてやってくれるか?」
自分のその言葉に、無表情だった刻の神が初めて表情を動かした。
「構いません、が、本当に?」
それでよいのかと紡がれる前に言葉を被せる。
「あんたのその顔が見れただけでも言った甲斐はあったな。それと、できたら、この剣をアーチに」
ずっと愛用してきた短剣を目の前に置いた。
「あとは、そうだなぁ……あんまり悲しまないでほしい……は、無理か。けほ、自分で言って何だけど、うちの子らは父ちゃんっ子だからなぁ」
苦笑が漏れる。
静かに聞き役に回ってくれている刻の神へと、取り止めのない話を続ける。
「多分自分のこと探すと思うんだよな。そんな時間を無駄にすることはやめて欲しいんだが……げほ、あと、せめて一言謝っておくべきだったか?父ちゃん死ぬからごめ〜んとか、何の冗談だ」
言葉も尽き、しばしの静寂。
「確かに、引き受けました」
溶け込むように神は応えた。
「そっか、んじゃ、ま、いっか」
静かに命を落としたその男は、唐突に閉じた瞳を勢いよく開いた。
「いっ!?あいっつぅ!?いだだだだだ……ちょ、身体中いたいんだけど、なにこれ!?」
痛みに身を捩り、それによって新たな痛みの誘発に悶絶する。
先ほどまでの男の、死を前にしても冷静であった姿とわが父、変化と悪戯の神キィとの差に内心涙が出てくる。
「父よ、とりあえず傷を治したらいかがですか?」
私は、床で暴れ回る父へとそう、声をかけた。
「あぁ、そうだった、痛すぎて忘れてたよ。なんでヒィロはこんなに満身創痍だったのさ?」
父が体を修復し、構成し直しながら尋ねる。
それに応える前に、背の縮み、わずかに高くなった声で父は楽しそうに笑った。
「ま、いっか。本人に直接聞こう」
その手にはいつのまにか小さな輝きが握り込まれていた。
目を見開き、再びそれを確認する。
「っ!なにを、なさるおつもりですか!?」
「ソフィ、しばらくどっか行ってて……どうした?疾く去れ」
「わ、かり、ました」
その声には逆らえず、私はその後になにが起きたのかを知る事はできなかった。




