旅立ち準備
父の葬儀の後、父を探す旅に出ることを決めた弟と自分は、手分けして準備をしようと商店通りで別れた。
弟は保存食や調味料、自分は雑貨類だ。
幸い、父は自分たちに色々なことを教えてくれてたし、必要な物はほとんど家に揃っている。今回購入しようと思ったものは調味料を持ち歩くための小さな瓶、野営の際に使う携帯できる調理器具などだ。
目当ての店へと向かう際に、反対側から歩いてくる黒髪の少年に気がついた。一瞬弟のシエルかと思ったが、あいつよりも背が低い。それでも、この辺りでは弟と父以外で見かけたことのない髪色に目が引き寄せられた。
こっちに気付いたのか、目が合う。
「っ!?」
息を呑んだ。弟に、シエルにそっくりだったから。
「ほら、これ」
少年はそんなことを言いながら自分に何か、短い棒のようなものを放り投げる。反射的に受け取ったそれは、見覚えのある短剣だった。昔から父が肌身離さず持っていた物だ。
慌てて少年へと顔を向けようとした時、頭に手が置かれた。ぽんぽんと軽く叩かれる。懐かしい感触。
「ごめんな、アーチ」
「とうさ……っ!?」
いるであろう人の姿はどこを探しても見当たらなかった。
父のかつての仲間であるネル兄さんに伴われて、俺は初めてここへ、父の墓標へとやってきた。
葬儀の最中、空の棺であっても土の下へと埋葬される所を見たくなくて、俺はみんなを置いて逃げ出した。
「ボクだってヒィロが死んだなんて信じてないよ、でも、色々準備してくれた礼儀として一回くらいは手を合わせる振りだけでもしに行こうよ」
そんなふうに説得されて、そこら辺に咲いてた花を一輪手折って、必ず探し出してやると誓いながら手を合わせた俺の前、墓石の上にそいつは降り立った。
「え、シエ……ヒィロ?」
ネル兄さんが驚いたような声を上げる。
俺と同じくらいか少し小さいくらいの黒髪の少年。
教会の壁にかかってる絵に描かれてるような、複数枚のゆったりと重ねられた布の服。その腰には中身の見えない小さな瓶が鎖で吊るされていた。
ネル兄さんを見つめて細められた瞳も、俺と同じ黒だった。
「残念、今は違うね。ちなみに、魔王でも、邪神でもないよ」
兄とよく似ている声で応える黒い人。父の親戚かと思ったけど、話に聞いたこともない。だけど、その仕草や話し方が父を思い出させる。
「ま、さか……キィ?」
信じられないと言った顔でネル兄さんが尋ねた。
聞き覚えのある名前、勇者物語の敵役、魔王の名前だ。
「正解。覚えててくれて嬉しいよ。また一緒に遊びたいけど今回は……」
急に風を切る音がして、キィと名乗った人物へと不可視の刃が向かう。しかし、ネル兄さんが放った風の魔法は何が起きたのか、目の前でかき消えた。
「その話し方、やめてくれないかな?」
「似てるだろ?ほら、こういうことだから、迷宮を探してももう何も見つからない」
『ほら』と自らを指し示すキィ、さん?
「わかったらもう諦めろな?けっこう気にしてたから」
その言葉は明らかに俺へと向けられて、そして、現れた時と同じ様にその姿は溶けるように消えていく。
その一瞬前、瓶の内側がキラリと光った気がした。




