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泡の割れる音



夜が静かに沈んでいく。

“月の市”は終わり、ランタンの灯りがひとつ、またひとつと消えていった。


あなたは湖の桟橋に立っていた。

水面には、無数の泡がゆっくりと浮かび上がり、

それぞれの中に“別の自分”が映っている。


酒場で笑う自分。

現実で机に突っ伏す自分。

誰かの墓の前に立つ自分。


「……これが、全部、俺?」

問いかけると、風が吹いた。


湖面の泡がひとつ割れ、

中から現れたのは――後輩だった。


「せんぱい。あなたは、どの世界を“観測”したいですか?」

彼女の声は、どこか悲しげだった。


「この世界に残れば、きっと穏やかに生きていけます。

毎日、美味しいお酒を飲んで、笑って、眠って。

でも……泡の外にいる“あなた”は、きっと、それを見ているだけなんです。」


「つまり、ここにいる俺は――」

「泡の中の“幸せな観測結果”です。」


あなたは目を閉じた。

頭の奥で、何度も響く言葉。


『観測された瞬間に、世界は決まる。』


現実の痛みを思い出す。

あの夜、どうしようもなく虚しくて、

酔ったまま「異世界に行きたい」と思った瞬間――

泡が生まれた。


「……帰ることは、できるのか?」

「できます。でも、戻った先では、また“現実”があなたを試すでしょう。」


静かな風。

波音の奥から、誰かの笑い声。

リリーネ、シャーロット、後輩。

みんな、この泡の中で生きている。


あなたは、ゆっくりとジョッキを持ち上げた。

泡が立ち上り、月の光を映す。


「なら……俺が選ぶのは、“どっちも観測する”ことだ」


後輩が目を見開く。

「え……?」


「現実がクソでも、夢が甘くても、どっちも俺だ。

 だったら、どっちも見届ける。

 泡が割れても、ちゃんと観測し続けてやる」


その瞬間、湖全体の泡が一斉に弾けた。

世界が揺れ、時間が止まる。


……そして、あなたは目を覚ました。

見慣れた天井。

けれど、机の上には一本のジョッキが残っていた。

中には、まだ一粒だけ――

泡が残っていた。

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