風の宿、朝のざわめき
朝の光が、木の天井を金色に染めていた。
あなたはぼんやりとした頭で起き上がる。
あの夢の感覚――まだ手のひらの奥に、微かに残っている。
「……“観測した世界”は、まだ終わってない」
青い髪の少女の言葉が、頭の奥で何度も反響していた。
階下へ降りると、ソアラがいつものように朝食を並べていた。
けれどその手が、ほんの少しだけ震えているのを見逃さなかった。
「……ソアラ、昨日の夜、俺、変なこと言ってなかったか?」
「え?いや、いつも通り楽しく飲んでたよ」
にこやかに答えるけど、その笑顔の奥に“隠しごと”の影。
あなたはパンをかじりながら、無意識に周囲を見回した。
リリーネは紅茶を飲みながら本を読んでいる。
ページの端に書かれた古い文字が、ちらりと見えた。
それはこの世界のものではなかった。
心臓が跳ねた。
どうしてこの世界に“日本語”が?
そのとき、カウンターの奥からシャーロットが声をかけた。
「今夜、湖の向こうで“月の市”が開かれるわ。行ってみるといい。」
「月の市?」
「ええ。“夢と現実の境を売る市”って言われてる。
あなたが見た“泡の夢”も、そこで何かわかるかもしれない。」
外の風が吹き抜け、ドアのベルが小さく鳴った。
ピンク髪の後輩が、バスケットを抱えて入ってくる。
「せんぱーい、今日は湖の風が強いですよっ!
でも、行くならあたしも付き合いますね!」
にぎやかな声の裏で、あなたの胸の中では別の音が鳴っていた。
“ここは本当に、ただの癒しの世界なのか?”
パンの香ばしさの奥に、確かに何かが混ざっていた。
懐かしい、けれど戻れない“現実”の匂いが――。




