表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

第2章「蒐集される声」

朝の資料館は静寂に包まれていた。


開館前のこの時間、私だけの特権。誰にも邪魔されず、昨日発見した箱の内容について調べられる。


「おはよう、日高さん。珍しく早いね」


予想外の声に、私は思わず身を固くした。振り向くと、新任の館長補佐・西園寺誠司が立っていた。


「あ、おはようございます」


彼は都会から赴任してきた四十代の男性。鋭い目つきと薄い唇。常にきっちりとしたスーツを着こなしている。


私は机の上の資料を何気なく手で覆った。彼の視線が一瞬そこに留まったような気がした。


「何か面白いものでも?」


「いいえ、ただの古い目録です」


彼は微笑んだが、その表情は目に届いていなかった。


「そうですか。では、お邪魔しました」


西園寺が去った後、私は安堵のため息をついた。なぜ隠したのか、自分でも理由はわからない。ただの勘だった。


祖母はよく言っていた。「栞、あんたは感の良い子だ」と。


私は箱から取り出した資料を改めて見た。日記の断片、写真、そして地図。


それらを年代順に並べていくと、1930年代から1940年代にかけての何かが浮かび上がってきた。


町の公式記録では触れられない出来事。複数の視点から記された証言。そして消されかけた真実。⏳


祖母・椿の筆跡と思われるメモには「彼らは声を集めている」と書かれていた。


誰が?何のために?


疑問が次々と湧き上がる中、一枚の写真が目に留まった。


町の中心にある丘の上の建物。今は使われていない古い邸宅だ。


「西御殿」と呼ばれるその場所は、立ち入り禁止になっている。


理由は老朽化のためと聞いていたが、写真の裏には異なる説明があった。


「声の収集所—ここから全てが始まった」


昼休みを利用して、私は西御殿へ向かった。


人気のない坂道を上りながら、背後に視線を感じる。振り返っても誰もいない。


しかし確かに、誰かが私を監視している。


西御殿に近づくにつれ、奇妙な圧迫感が増していく。


玄関前に立つと、風が止み、音が消えた。まるで時間が凍結したかのような感覚。


鍵のかかった扉の向こうに、何かが私を待っている気がした。


そして私はそれを見た。窓ガラスに映る自分の姿の後ろに、かすかに浮かぶ別の影を。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ