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守られる場所

ルアナは夜明け頃に目が覚めた。


ここは…?


辺りを見回すと、書棚にはたくさんの本があり、机の上にはペンなどの筆記具がある。


確か、イアンと一緒に地下通路を使って王城に行くって話をして…どうなったんだろう。


イアンがいないわ…。


それにここは王城の一室なのかしら…?


どうしたらいいのかわからず、辺りをきょろきょろしていると、ガチャリと扉が開く音がする。


ルアナはその音を聞き、体がびくっと跳ねてしまう。


もう前の様な残酷な施設じゃないのに…。


誰かいるの?


身構えているとぴょこんとうさ耳がドアから覗きだしていた。


扉から姿を現したのは、栗色のまとめ髪にメイドの服をまとった女性だった。


目覚めたルアナに気づき、優しく手を取る。


「あら、目が覚めたようですね!1人にさせてしまってごめんなさい、不安でしたよね?」


「え、えぇっと…。」


「申し遅れました、私はミリーと申します。殿下から貴女のお世話をと仰せつかっています。」


「わ、私はルアナです…。あの、お、お世話ですか?その、自分の事は自分でできます…。」

                                                                                                                                                                                                                                                                     

「そうおっしゃらないでくださいな。殿下から貴女の事を任せられていますし、何より弱ったお体で無理してはいけませんよ。」


優しく手を撫でながら、あたたかな微笑みをこちらに向けてくれる。


「ですが、ルアナ様ができる事、お願いしたいことを少しづつでいいので、私に教えてください。いつでもお力になりますよ!」


手をきゅっと握ってくれる。


あぁ、ここは安全…私にきつく当たる人はいないんだわきっと…。


「さぁさぁ、ルアナ様。お部屋の準備が整っていますのでまずはそちらに移動いたしましょうか。」


「お、お部屋ですか?」


「えぇ!殿下からルアナ様にと。早速移動しましょう、ご案内いたしますね!」


ミリーはルアナの手を引き、さっそくルアナのためにと用意した部屋へ案内へと案内をする。


「え、わぁぁ!」


早く見せたいのか、ぴゅーっとミリーはルアナを連れて行った。


「着きましたよ~!ここがルアナ様のお部屋になりますわ。このお部屋はルアナ様のお好きなようにいお使いくださいませ。」


広々とした部屋に、小さいころ、憧れていたお姫様が使うような豪華なベッドにドレッサー、高級そうな絨毯に大きな窓。


これらすべてを好きなように使えるだなんて…今までは孤児院という名の、薄暗い地下牢みたいな場所だったのに。


こんな贅沢をしてしまっていいのかしら…。


ルアナが何も口に出さないことにミリーは不安になってしまた。


「…もしかして、お気に召しませんでしたか?」


「…違うんです。私…今までこんな素敵なお部屋で過ごしたことがなくて…びっくりしてしまって…。こんな素敵な場所を本当に私が使ってもいいんですか?」


「もちろんです!今日からここはルアナ様のお部屋なんですから!」


「ありがとうございます…。用意してくれたイアンにお礼を言わないといけませんね…。」


「きっと、殿下もお喜びになりますよ!」


そんな会話をしていると突然グゥゥ~とお腹がある音が聞こえた。


「ご、ごめんなさい…!」


ルアナが恥ずかしそうに顔を赤らめ、両手で顔を隠してしまう。


「お食事今すぐお持ちいたしますね、あたたかくておいしいパン粥ですよ~!」


ミリーはタタタッと部屋から出て、あたたかいパン粥をすぐに持ってきてくれた。


「お熱いので、ゆっくり召し上がってくださいね。」


今までは固いパンに、温かいスープが出されればいい方だった。


こんなおいしそうなものがこの世の中にはあるのね。


スプーンですくい、ふーふーっと冷まし口に運ぶ。


すると口の中には、ミルクの優しい味とパンのほのかな甘みを感じる。


温かさも相まって、ほっとしてしまうような味だ。


「…おいしい、です。こんなおいしい物食べたことない…です。」


おいしい物を食べたこと、あたたかさから安心したのか、ぽろぽろと涙がこぼれる。


「ルアナ様…。もう大丈夫ですから、大丈夫ですよ。ここでの生活は安全です!私と殿下が補償いたします!」


ミリーはルアナが食べ終わるまで傍にいた。


ルアナはパン粥を食べ終わると眠気に襲われうとうとと心地よく眠ってしまった。


ミリーはルアナをベッドに運ぶため体を持ちあげようとすると、やけに軽いことに驚いた。


最初、見た時から細すぎると思っていたけれど…、低体重すぎるわ…。


これは絶対に殿下にお伝えしてお医者様に診てもらわないと。


それに今着ている服から、透けてところどころに痣が見えるわ…。


ミリーはルアナが今まで受けた扱いを想像しては、心を痛めた。


ルアナをベッドに移し、イアンが戻ってきていないか確認しに、居そうな場所を探しに行った。


___________


 イアンは王城に、戻り執務室にある机で様々な書類に目を通していた。


闇オークションの奴らを裁くのにだいぶ時間がかかってしまった。


ルアナはミリーが見ているから大丈夫だと思うが心配だ…。


イアンは王城に帰ってきてからも、執務室で今回の件に関わった貴族や商人を終身労役をさせるための手続きを行っていた。


しかし、彼女の出自がわからなければ、父上も母上も彼女を王城に住まわせるのは快く思わないだろう…。


「…すまない、ヴィクター。1つ頼まれごとをしてくれないか?」


「なんでしょうか殿下。」


「俺が連れ帰ってきた銀髪の少女ルアナの出自などについて調べてきてほしいんだ。出自がわからなければ、父上も母上もルアナをこの皇太子宮に住まわせることを反対するだろう?そうならないためにもだ。」


「…失礼ですが、殿下が女性にご興味を持たれるのは珍しいですね…。」


「そうかもな、どんな令嬢だろうが俺に媚びを売る女しかしないんだ。興味はないし、そもそも女は嫌いなんだ。仕方ないだろう。」


今までの婚約者も何かと俺に媚びを売ってきた。


確かに、俺は皇太子だ。


だが、皇太子妃という地位や権力にこだわる貴族が多く、俺に気に入られようと必死で媚びを売る女が嫌いだ。


顔をしかめているとヴィクターが口を開く。


「よほどあの少女を気に入られたようですね…。今まで女性にご興味を示さなかったので喜ばしい事ではありますが、やはり国王陛下も王妃様もそこはお気になさると思います。こちらで出来る限りはやってみますが、孤児という事なので、あまり期待はできないかと。」


「わかっている。しかし俺の直感ではルアナはどこかの血筋である可能性を見ている。」


「と、言いますと?」


「どの国でも有名な話だが、『月の乙女』の話はヴィクターも知っているだろう?話の内容では月光のような銀髪に月を思わせる金眼、それに加え、月の加護というものがあり、豊穣をもたらす、国の繁栄、人身を癒す…など不思議な力があるらしい。その力がなくとも、たまたまかもしれぬがルアナはあまりにも酷似している。昔の、子供に聞かせるような伝説の話だからな、くだらないと思うかもしれんが…。」


「殿下は直感が優れていらっしゃいますからね、外されたことはないですし…調べてみる価値はあると思います。なのでお任せください。2日後には調査結果をお伝えできるようにいたしますので、すぐに影の者にお伝えします。」


「あぁ、ありがとう。よろしく頼むぞヴィクター。」


 月の乙女という話はこの国、いや、この大陸全土で語り継がれているとても有名な話。


子供のころに聞かされる話で、かつてこの大陸には魔族、人族、獣人族がいた。


魔族は人族・獣人族を襲っては大陸全体を支配し、魔王という存在がいた。


人族と獣人族は手を取り、一緒に魔王を打ち倒し、平和へと導く話。


その仲でも唯一出てくる人族がその月の乙女なのだ。


大陸史を学んだ時にもこの話をされるし、歴史上残っている話らしいが果たして獣人よりも身体的な力が弱い人間にそのような特別な力を持つものが生まれるのだろうか…。


書類に目を通しつつ悶々と考えているとノック音が聞こえた。


「ミリーです。殿下いらっしゃいますでしょうか?」


「あぁ、入ってくれ。」


ガチャっと扉が開くと垂れたうさ耳が目に入る。


「ミ、ミリー何かあったのか?」


「えぇ、少しルアナ様の事でご相談したいことがありまして…。」


垂れた耳から察するに、ミリーもルアナのことで何か心配なことがあるのだろう。


「ルアナに何かあったのか?」


「えぇ、殿下も思われていたかもしれませんが、ルアナ様の体にはいくつもの痣がございます。きっと施設では不当な扱いを受けられていたのではないかと…。それに、ルアナ様を自室に案内し軽食をお出しした後、また眠ってしまったので、ベッドに移したのですが、ルアナ様は極度の栄養不足だと思われます。体重も軽すぎると思いました…。なのでお医者様に診てもらいたいのですが手配してもよろしいでしょうか?」


「俺もルアナを運んだ時に同じように感じていた。だからルアナが起きたら医者を呼んでくれ。」


「ありがとうございます。それではお医者様が到着する際にはお声がけいたしましょうか?」


「いや、検査結果の時だけ呼んでくれ。今日も公務が忙しくてな…すまないがルナアの事を頼む。」


「お任せください!それでは私はここで失礼いたします。」


「あぁ。」


ぱたんと扉が完全に閉まるとイアンの体は力が抜けていた。


ルアナに何があったのかひやひやしてしまった…。


まだ出会って間もない少女の事を案ずるだなんて、俺はどうにかしてしまったのだろうか…。


だが、ミリーもルアナの事を気にかけてくれていることがとてもうれしかった。

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