7番の少女
~プロローグ~
このジアライト大陸には月の乙女、という伝説上の存在が古くから語り継がれている。
「豊穣の力」、「浄化の力」で国の繁栄に尽力したという物語。
かつて神の存在に最も近しい存在だった月の乙女たちは、様々な種族に敬われ、大切な存在とされていた。
しかし、時は過ぎ、獣人たちの欲望と争いによって姿を消してしまったと言われている。
そんな中、誰も知らぬ闇の中にその少女が輝き始めるのだった。
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「おら!とっとと歩け!7番!」
いつものように、孤児院と呼ばれているこの施設には、日常的に怒号が飛び交う。
名前を奪われ、自由もない。
この施設の人たちは7歳から16歳の子供の容姿や能力でランク分けを行い、ランクが高ければ売れるようにと必要最低限の健康的な食事を提供し、ランクが低ければ残飯のようなものが出される。
私はこの施設の最高ランクに位置するらしい…。
でも、この施設に人権なんてものはない。
いくら高値のつく商品だとしても私は人ではない。
ここでは物も同然だ。
私は5歳のとき、ここに連れられてきた。
理由はわからない…いや、わかりたくないのかもしれない。
昔は私にやさしく手を差し伸べてくれていた人がいたような気がする。
でも、はっきりとした記憶はない。
このはっきりとしない記憶にすがっていても、こんな場所では無意味だ。
光なんてものは存在しない。
ただ生きるか死ぬか、己の行動で決まってしまう。
本当はこんな場所に居たって意味はない。
逃亡なんてもってのほか、鼻の効く獣人たちが逃走した商品を見つけるまで追いかけまわしてくる。
何度も何度も、死んでしまえば楽になれると思い、ナイフを使用し自傷したり、舌を噛んだり様々なことを試した。
それでも私は死ねない。
生まれつきなのか私には不思議な力があるらしい。
それに気づいた施設員には上等な商品だが、傷跡もなく消えるからという理由で都合の良いサンドバックにされる日々だった。
少しでも声を出そうものなら単純な殴る、蹴るだけではなく、鞭打ちなども行われた。
ただ毎日が過ぎ去るのを待つしかなかった。
そうして今日は私の主人が決まる日。
今朝、施設員に言われ、夜の販売会に向けおめかしをさせられている。
好みでもない、いかにも愛玩奴隷として売られるような、はだけたドレスを着させられる。
あぁ、私の人生には希望なんてないんだ。
そう思うごとに、胸のあたりがちくっとする。
この感覚は何だっけ…、昔の私ならわかったのかな…。
常に怒号の中。
「さっさと歩けや!」
「売れなかったら今日の飯はなしだぞぉ?そうなりたくなきゃ、媚び売れぇ!わかったか!!!」
バシンッ、バシンッと鞭の音が鳴り響く。
鞭を地面にたたきつける音は少年少女たちにとって恐怖の道具だ。
彼らの体はびくびくし、鞭の音が鳴るたびに体がびくっと反応する。
5人の少年少女は馬車の荷台へと乗せられ、夜だが、ばれないようにと布をかけられる。
石造りの道を走る馬車に揺らされながら会場に向かう。
会場に着くと施設員は闇オークションの主催者と話し込んでいるようだった。
話を終えた施設員がこちらにやって来て私たちを移動させる。
「10番、3番、27番、12番ここに居ろ。逃げ出そう物なら…足を切り落とされる覚悟でいろよぉ~!」
それぞれ折に入れられ、脱走できないようにと首輪に付けられた鎖と檻を結び付け、人間では取れないようになっていた。
私はあの子たちとは違う檻に入れられた。
金色のきらびやかな檻。
いくら綺麗だとしても私に自由はない。
「7番、お前はここだ。ここで最後まで待ってろ。お前は今夜の目玉商品なんだからなぁ。」
ククッと不気味に笑う施設員。
私を脅したいのだろうか…。
生きることをあきらめた私には感情なんて不要な物。
もうとっくに捨てたはずなのに…なのに、ここに来てから何かがざわつく。
「せいぜい、いい主人に買われることだな!」
嘲笑いを含むように吐き捨てられる。
ほどなくして、闇のオークションの開始のベルの音が会場内に響いた。
とうとう、始まったんだ…、獣人による闇と欲望が入り混じったオークションが。