修道院にて
「初めまして、私はシスター・メアリー。この修道院の院長をしております」
そう自己紹介を言った後、ジッとコチラを見るシスター・メアリー。
そして、シスター・メアリーの後ろではチラチラと他のシスター達が私の方を見ていた。
....何なのよ、これ。
これじゃあ私が晒し者じゃない!!
そう憤慨しながら、シスター・メアリーの話を聞く私。
当のシスター・メアリーは何だかとても厳しそうな顔にしていて、これから私が彼女からガミガミと怒られることを想像しただけでも気が参ってしまうわ。
それに、シスター服って想像以上にダサくて地味だし....こんな服を毎日着るなんて耐えられない!!
「ここは世界を救済した聖女ベレニケへの祈りを捧げ、規律を守り、お互いの罪を悔い改める場所。つまり、ここは聖女ベレニケの下で修行を行う場所なのです」
聖女ベレニケ....聞いたことがある。
確か、ベレニケ教の人々が崇めている聖女だったはず。
でも、私自身ベレニケ教の教会での説教が退屈だったから、あんまり聞いてないのよね。
....お姉様はその話を真剣に聞いていたみたいだけど。
そもそも神父の話が長いし、聖典の分厚いし....そんなことをしても無駄な時間を過ごすだけなのに、何でそんなに信心深くなるのかしら?
「....その様子だと、あなたには信仰心があまりないようですね」
「えぇ、そうよ。だって教会の話はつまらないもの」
私がそう言うと、ピクリと眉が動くシスター・メアリー。
私はそんなシスター・メアリーやハラハラしている他のシスター達を気にすることなく、続けてこう言った。
「大体、聖女ベレニケは2000年も前の人でしょ?本当に実在するの?」
私がそう言うとシスター・メアリーの厳しそうな顔は更に厳しくなり、分かりやすく怒っていた。
私は悪いことを言っていないわ。
ただ、思っていたことを言っただけ。
ただそれだけよ?
そう思いながらシスター・メアリーの方を向いていると、彼女はため息を吐くとこう言った。
「....この様子だと、あなたは真面目に神父様の話を聞いていないようですね」
そう言った後、さっき以上に厳しい顔付きとなったシスター・メアリーは背中を向けながらこんなことを言った。
「とりあえず、詳しい話はこの中でしましょう。話はそれからです」
そんなシスター・メアリーの言葉に対し、私は抵抗しようとしたものの....結局、抵抗できずにそのまま腕を引っ張られる形で修道院の中に入って行った。
痛い!!引っ張らないで!!
これは暴力よ!!
私は大きな声でそう叫ぶけれども、シスター・メアリーはその声に気にすることなく私を引っ張っていき、やがてとある部屋に連れて行った。
その部屋は無機質と言っても過言ではない石造りの部屋で、その部屋には私用のシスター服が置かれていた。
「シスター・マリン。その荷物をこちらに」
「シスター・マリンですって!?私にはマリン・スワロフ・ビードリアっていう名前が」
「今日からあなたはこの修道院の一員、シスター・マリンです。そのことを忘れてはいませんか?」
な、何なのよこの女は!?
いくら私がこれからここに暮らすからって、そんな言い方はないじゃない!!
これだから修道院に行きたくなかったのに!!
そんな私の心の愚痴を察したのか、シスター・メアリーはこう言った。
「あなたがどう思っているのかは何となく分かりますが....これはあなたが起こした行動の結果です。ですから、あなたに愚痴を言う資格はありません」
シスター・メアリーは淡々とそう言った後、テーブルの上にカバンを置くように私に言った。
私はその言葉に渋々従うようにテーブルにカバンを置いて開けると....シスター・メアリーは私のそのカバンの中身を勝手に触り始めた。
「ちょっと!?何してるのよ!?」
「さっきも言いましたがあなたは今日からこの修道院の一員....つまりは修道女になるのです。修道女になるのなら、これは必要ありません」
そう言った後、私が持ってきたドレスやアクセサリーなどを取り出すシスター・メアリー。
当然ながらその行為に激怒した私は、シスター・メアリーを止めようとした....のだけど、それでシスター・メアリーが止まるはずもなく、彼女はあっという間に今後の生活で必要なものと不必要なものを分けていった。
....全部私の大事なモノなのに。
ポツリと私が呟くと、シスター・メアリーは
「ここが修道院であることをお忘れですか?」
と言った後、軽くなった私のカバンを閉じたかと思えば、そのカバンと共にシスター服を私に手渡した。
「では、これからあなたの部屋に案内します」
その言葉と共に、シスター・メアリーが案内したのは....さっきの部屋と同じ無機質で質素な石造りの部屋で、その部屋を見た私は思わず嫌な顔をした。
だって、こんな牢屋みたいな部屋で一生過ごすのは嫌なんだもの。
そう思うのは無理もないでしょ。
....というか、この部屋に暮らす他のシスター達はどういう神経をしているのかしら?
「....私が住めるような部屋じゃないわ」
「最初は誰もがそう思いますが、慣れれば何とかなりますよ」
「.......」
慣れたらって.....私、この部屋に慣れる気がしないわ。
家具はベッドとクローゼット以外は何もないし、服はシスター服しかないし.....ここで死ぬまで暮らせっていうの!?
本当に信じられないわ!!
「あぁ、ひとつ言い忘れていましたが....ここでは朝5時に起床するので、そこだけは覚えておいてください」
「.....は?」
起床時間が朝5時.....ですって!?
そんなの嫌よ!!
もうちょっと私を寝かせるつもりはないの!?
こんなの不当よ!!不当!!
ここを出たら訴えてやる!!
そう思っている私を尻目に、部屋を出るシスター・メアリー。
....はぁ。
「こんな窮屈なところで私は暮らさなきゃいけないの.....?」
ウィリアム様がどこに居るのかが分からない以上、助けが来るかどうかは分からない。
だけど....だけど。
いつか、白馬の王子様と一緒にここから逃げ出したい。
そう心の中で願いながら、私の修道院生活は始まったのだった。