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ドリームジョブ

 いくら寝ようが眼精疲労が抜けることはないし、いくら眼精疲労が抜けなかろうが寝続けていてもいい日などあるわけがなかった。手と目のコンビネーションは大切だ。日が昇り切った街では、誰か捻くれた奴がその辺のカップルの顔と顔を見比べてニタニタしている。だがその間にも、二人はお互いのもう一層だけ深い部分へと手と目を滑り込ませ、触れ合い、世界に二つとなく側に佇むその人に、愛おしい組み合わせの妙を見出しているというじゃないか。どこへ触れるにしても、自分の視界の中を自分の手がまさぐることで初めて実感という波が押し寄せてくる。そして波は返っていく。砂浜に跡を残し、あまりに遠くに広がる海が窓の表面に幻影を浮かべ、音だけを残し消えていった。てめえのチンコを睨みつけたままシコる奴はあんまりいないってことの超高等比喩表現だ。書いた本人の理解すら置いてきぼりにしてしまうスーパーハイパー比喩表現ポエット。頭の固い定型詩人よりよっぽど理論派なんだ。

 数学の世界は自由であるからこそ素晴らしいという。前提から結論まですべて自前で、その閉じた世界の中で矛盾が生じさえしなければ何も問題ないのだ。これを子供っぽいという人もいる。完璧とはそいつが子供のまま引きこもっているから成り立つのであって、完璧が成立するうちはまだまだ未熟なのだと、こと芸術の領域ではいわれている。晩年のピカソはやっと子供らしい絵が描けるようになってきたと喜んでいたし、当の子供たちはお兄さんお姉さん扱いされて大喜びだ。かつてのロックンロールが大人への反発で、古い映画に収録された車内でのタバコシーンは大人になることへの憧れだった。タバコを吸っている奴はカッコつけたがりの夢見がち大人子供という論調も、大人になってもタバコ吸うくらいしか楽しみがないよと爆睡中の喫煙者の口の隙間から零れた茶色い前歯が代わりに釈明を始める。夜にはオモチャも動きだす。世界はステキなことで溢れている。目には涙が溢れている。今夜寝てしまえば次の瞬間朝になっている。これって一体どういうことなんだろう。これが分からないうちは、僕はもう少しだけこの夜を観察していたかった。今夜も部屋に魔界のゲートが開き、闇の中から蛇女が這いよってくる。彼女は最近、部屋の本棚の一冊から倫理を覚えたてだった。彼女にとって倫理の内容自体はどうでもいいのだけれど、新しい知識というのはそれだけで彼女の中で言い知れない輝きを放つので、どうも僕を食い散らかしたい食欲を上手く肯定できないでいた。まったく賢人の素質を抱えた蛇の女。服を着ないで乳房丸出し、下半身の蛇の柄も丸出しでいるところ以外はどこからどう見ても賢い人間特有の目を、獣の全身で体現している。蛇女が僕に這い寄ってくる。僕はその分彼女から離れていく。二人の距離は無限の直線の上、どこまでも縮まることはない。数学の始まりであった。

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