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なにか聞こえたかと思いましたが、気のせいでしょうか。シャルロット様は私と目が合うとにっこりと微笑みました。
「このハーブティー、とても美味しいわ」
家政婦長が聞いたら、きっととても喜びます。彼女自慢のフレッシュハーブティーですからね。
「もしかしてこのお屋敷で育てているのかしら?」
「ええ。朝摘みのものを淹れてもらいました」
「どうりでとても香りがいいはずよ。移動の疲れがすっかり癒されたわ」
また一口、上品に紅茶を飲む姿はまさに庭でくつろぐ妖精のよう。その小さく可愛らしいお口から、不穏な言葉が漏れたとは誰が想像できるでしょう。
……完璧なお友達って、いいましたか?
まさかそんな事を聞き返せるはずもなく、聞き間違いではないかと結論づけました。だってそうでしょう、こんなに可愛くて優しそうなシャルロット様がそんなことをいうわけがありません。
「使用人まで完璧。本当にアデリーは私のお友達に相応しいですわ」
「やっぱり聞き間違いじゃありませんでしたか……」
「いけませんの?」
シャルロット様は憎らしいぐらい、可愛く小首をかしげました。
「綺麗なものや美しいものが好き。どうしてそれがいけませんの?」
「いけな……くはありませんね」
「誰にでも公言しているわけではありませんわよ。そこまでお馬鹿さんではありませんもの」
たしかに、令嬢達の間では、シャルロット様は無欲で綺麗な天使。容姿通りの美しい心の持ち主のように思われています。
なのに、どうして私にそんなことを?
「アデリーは私の言葉を言いふらしたりしない。そうでしょう」
「ええ、それはもちろん」
「そうよね。いい子だわ」
いい子って、年齢は私の方が上なのですが……。
ですがにこにこと機嫌よく微笑んでいるシャルロット様をみていると、なんだかそんな些細なことはどうでもいいような気がしてきてしまいます。
……しかし今のお話が本音なら、やはり私は彼女の友人には相応しくないような。
「今度は、貴方のお話を聞かせて欲しいわ」
「私ですか? 申し訳ありませんが、とりたててシャルロット様にお話しするようなことはなにも」
「そのなんでもないことを聞きたいの。アデリーが何を考えどう生きているのかを」
大げさな物言いに苦笑しました。
だけど私の生活なんて毎日平凡で、ほとんど代わり映えのしないものですが。
「そうねえ、たとえば第二王子殿下と一緒に働くのは大変ではなくて? あれだけ身分の高い方だと気難しい面もありそうですわね」