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ー6ー

 やがて庭に小さなお茶会の用意が準備されました。当初は最高級のお茶をお出しする予定でしたが、特別なハーブティーに変更してくださいました。そのうえ話が弾むようにとお菓子の数も増やしていただけたようです。落ち着かれたであろう頃合いを見計らい、シャルロット様をお誘いしました。


「まあ! こんな可愛らしいお茶会を用意していただいて、とても嬉しいですわ」

「お気に召してくださったなら嬉しいです」


 表面上はとりつくろいながら、内心は緊張でクラクラしています。

 何を話したらいいのかわからないと狼狽える私に、家政婦長たちは笑顔で話を聞くだけで十分だと言ってくれました。無理に話そうとせず、否定せずに相手の話に耳を傾ければいいだけだと。そのぐらいなら、なんとか実行できそうです。


「貴方をずっと、素敵な方だと思っていましたの」


 どうしましょう。

 初手から全力で否定したくなりました。


「あの日も上品な佇まいで凛としていらして。なによりこれまで、一度も貴方の悪い噂を聞いたことがありませんのよ。それって社交界ではものすごいことではなくて?」


 上品というか、誰からも話しかけられないから黙って時間をやり過ごしていただけですが。それにわざわざ悪口を言うほど、私に興味が無いからでは……?

 ああいけない、また否定しそうになりました。


「……えっと……シャルロット様にそう思っていただけるなんて、恐縮です」


 彼女のような淑女の鑑に手放しで褒めていただくと、嬉しいよりも恥ずかしいが先に立ちます。緊張のあまり、あやうく紅茶を溢しそうになりました。


 ええと、次は何を話したらいいでしょうか。


 これまで度々、交渉のテーブルについてきました。難しく決裂は避けられないと絶望視されていた交渉ですら、何度も成功させてきました。なぜならそこにはお互いの明確な目的があるからです。私個人の判断や趣味趣向が入る余地はなく、ルールが明確なゲームのようなものでした。

 ですが友人同士の雑談というものは目的地がありません。自由度が高く、選択肢がありすぎるのです。どの話題をふればいいのか、なにを話せばいいのか、話してはいけないのか。

 他の人にはどうして『正解』がわかるのか、私には全然わからないのです。


「その……あの……」

「どうされましたの?」

「あっ、その。す、素敵なお召し物ですね」


 私の馬鹿。何故よりによってそんなつまらない台詞を?

 ましてや女性のドレスなんて、その方の経済状況や服装のセンス、社交界での立ち位置すら言及できる非常にデリケートな話題なのです。会話初心者の私が選んでいい話題ではありません。


「嬉しいわ。とても気に入っているテーラーに作っていただいたドレスなの」

「あ……そうなんですね」

「うふふ、私のテーラーの選び方を聞いて下さる?」


 捉えようによっては無礼にあたる質問だというのに、シャルロット様は全然気にしていないようでした。いえ、もしかしたらなにか思う所があるのかもしれません。ですがそれを表に出して場をしぼませるようなことはしませんでした。


「初めてテーラーで仕立てるとき、最初は全てお任せで丸投げしますの。それでなお気に入る仕立てが出来るテーラーなら、次回以降も安心してお任せできますもの。……逆に全然ピンとこないテーラーは、趣味が最初から違うのね。後日、細かい指示で別のドレスを依頼してみても、やっぱりなんだか違うのよ」

「まあ……。でもその方法ですと、お気に入りを見つけるまで、気に入らないドレスをたくさん買わなくてはいけないですね」

「とっておきのお店を見つけるためだもの。そのくらいの労力はなんでもないわ」


 当たり前ですが、ドレスを仕立てるのはただではありません。金額が大きいことはもちろんですし、完成までの仮縫いに本縫い、何度も時間を取られることになります。

 ですがそれらをなんでもないと言い切るシャルロット様の装いは、たしかにそれだけのものを賭けた価値がある素晴らしいものでした。


「私は何でも完璧が好きですの。完璧なドレス、完璧なメイク。……それに、お友達もね」


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