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友人ができた。
嬉しい。
だけど、どうしたらいいのかわからない。
――だって、今までお友達が出来たことなんて無かったんですもの!!
「どうしたらいいのかしら。まずはやっぱり、ご両親に挨拶? 大変、至急旅券を手配しなくては」
「落ち着いて下さいませ、アデライド様」
いつも仏頂面の家政婦長が、いつもと変わらぬ仏頂面で私をなだめました。隣で話を聞いていた、若いメイドのララはケラケラと明るく笑います。
「両親との面識が必要だなんて、結婚の申し込みじゃあるまいし!」
本当に?
菓子折りの用意とか、必要ないですか?
「ついさっきお出迎えをして、お客様を部屋にご案内したばかりだというのに。真っ青な顔で駆け込んでいらしたので、なにかと思いましたよ」
そう。シャルロット様とお友達になったのはいいものの、なにをどうしたらいいのか全然わからないのです。迷惑なのは承知の上で、仕事中の彼女たちを引き留め、今後の『お友達らしい』対応についてアドバイスを聞きにやってきたのでした。
「ですがアデライド様にご友人ができるだなんて。こんなに喜ばしいことはございません」
家政婦長は、とてもそうは見えない硬い表情のままうなずいています。
「ほんとほんと。このまま恋人どころか友人もいないまま、寂しく人生を送るんじゃないかって、密かに心配してたんですから」
ララ、殺傷力が高すぎますよ。
「ふっ……恋人や友人だけが人生の生きがいとは限りませんよ」
「家政婦長、なにがあったのですか。ではなくて、私はどうしたらいいと思いますか」
「そうですね。やはりまずは色々とお話をされてみるのが一番かと。お互いを知り合い、共通点をみつけるのです」
なるほど、さすが家政婦長。
交渉事もまずは相手の素行調査からが基本。生まれや経歴、趣味や特技。交友関係から隠し事まで探りつくしてからが本番ですからね。
「言っておきますが、素行調査とは違いますよ」
「わ、わかっていますよ?」
家政婦長は鋭いまなざしで私を見ています。彼女は私の祖父母にあたる公爵家に長く勤めているベテラン家政婦です。本来なら私などではとても雇えない高級使用人なのですが、公爵家から『どうしても家を出るというのなら』と強く説得され、現在進行形でお世話になっています。
「友人になられたとはいえ、まだ知り合ったばかりなのですから。あまり堅苦しくない環境で、会話を楽しまれてはいかがですか」
「そうね。元々、夕飯前にお茶にお誘いしてみるつもりだったけど……」
「あっ、それじゃあ場所をお庭に変更するのはどうですか? 今日はとってもいいお天気だし、きっと会話もはずむと思います!」
ララが元気に手をあげました。
彼女はこの家に来る際に雇った新人メイドです。明るくクルクルと表情が変わるいい子ですが、家政婦長にはしばしば使用人らしくないと叱られています。だけど私は彼女のそんなところに好感を持っていました。
「貴方にしては悪くありませんね、ララ。それではわたしはとっておきのティーカップと茶葉を用意いたしましょう」
ありがたい申し出ですが、素直にうなずくことができませんでした。
「でもただでさえ今日は、急にシャルロット様が来ることになって仕事が多いじゃありませんか。貴方がたにこれ以上負担をかけるのは心苦しいです」
二人は顔を見合わせました。
それからララは満面の笑みで、家政婦長はやはりいつもの仏頂面で。
「なにをおっしゃるのですか。シャルロット様はアデライド様の大切なご友人、その方に喜んでいただくためならいくらだって働きますとも」
「そうですよ! あたしたちの底力を見せてさしあげますから、めっちゃ期待しちゃってて下さい!」
「……っ……!」
私は、なんて恵まれているのでしょう。
ここまで言っていただいて、それでもなおお断りするなどという無礼を働くことは出来ません。それでもせめて出来ることといえば、精一杯の感謝を込めて二人に深く頭を下げることだけでした。