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「私と仲良くですか? お茶をかぶった件でしたら、そんなに重く捉えないで下さいませ」
恩義に厚い方なのだなと感心していると、シャルロット様はさらにお笑いになりました。
「そうではないのよ。もちろんあの事にはとても感謝しているわ。でも親しくなりたいと思っていたのは、その前からよ」
ますます信じがたいのですが。
「事務処理能力以外は、いたって平凡以下な人間です。あげくに婚約破棄までされている傷物ですが、誰かとお間違えではないですか」
「間違えてないわ、アデライド・ヴィンターハウゼン令嬢。タリース国の公爵家の血筋をひき、現在は第二王子殿下の秘書として前代未聞の大抜擢を受けていらっしゃいますわね。最近、住居を新しく構えたそうですが、私を一番最初の訪問客にしてくださいまして?」
なんとまあ、よくご存知で。
しかしそれほど事情を知っていながら、本当に私と……?
「貴方と、お友達になりたいの」
シャルロット様は私の手を握り、上目遣いで小首をかしげました。
恥ずかしながら、私は生まれ育った祖国ではほとんど社交界に出してもらえませんでした。タリースに来てからは仕事三昧。こんな私に、もちろんお友達がいたことなどありません。
だから、私にお友達だなんて。
そんな。
そんな。
そんな……。
……恐れ多すぎて、立ち眩みがいたします。
「ねっ、私たち今からお友達になりましょうよ。いいでしょう」
「いっ、今から?」
大胆なお誘いに、カーッと顔が熱くなるのを感じました。
い、いくらなんでもそんな。
私たちはほとんど初対面だというのに……!
「それとも、私とお友達になるのは嫌?」
「つつしんで受けさせていただきます」
……はっ!
思わず、反射的に答えてしまいました。
ですが私にとって友人というものは、物語の中か妹の周りにしか存在しないものでした。それが今、目の前に突然差し出されたのです。こんな奇跡、逃したら二度とないでしょう。
「わあ、嬉しい! よろしくね、アデライド様。ううん、アデリーって呼んでもいいかしら」
笑顔が眩しい。
こんな素敵な方が、本当にお友達なのでしょうか。
私は明日、死ぬのでしょうか。
「あっ、さすがに急に馴れ馴れしすぎたわよね。私ったら、ごめんなさい」
「べ、別に? 呼びたいのなら、好きにお呼びになればよろしいのでは?」
私は何を言ってるのでしょう。
ああ、なんだか調子が狂います。
「本当? じゃあ今日からよろしくね、アデリー」
「わかりまひた」
最悪です、噛みました。
ああもう駄目です。絶対に嫌われました、決定です。
いつもそうだったんです。何か間違えるたびに、家族や婚約者から散々馬鹿にされてきたのです。それが悔しくて、二度と失敗するまいと努力してきたんです。なのにこんな大切な時に失敗するなんて、私はやっぱりゴミでした。
「アデリー? 顔色が悪いわ」
「あっ、その、今のは……」
「外に長く居すぎちゃったかしら。早く中に入りましょう? なんて、貴方のお屋敷なんだけど」
シャルロット様は悪戯っぽく笑いました。その様子は、私を馬鹿にしたり嫌いになったようには見えません。
まさか……許して下さるのでしょうか?
「ねえ、アデリー。早く貴方のお友達に、家の中を見せてあげて?」
お友達。まだ、そう言ってくれるだなんて。
「はいっ、喜んでっ」
私は思わず勢い込んで返事をしました。
あまりの力みように、またシャルロット様は笑うのでした。