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ー41ー  ※公爵令嬢視点

 馬車が走り出して、私ばかりが一方的に喋っていても不審には思わない。アデリーは口数が少なくて、私の話に相槌をうつだけなのはいつものことだから。

 ようやくアデリーが戻ってきてくれたのが嬉しくて、これまで話したかった計画を打ち明けた。


「それでね、やはりいずれは結婚を避けることは出来ないと思うの。でもそんなことでアデリーと離れ離れになるなんて、絶対に嫌。だから私たちをまとめて一緒に結婚してくれる相手を探そうと思うの。たとえば年の近い兄弟とか……。ああ、いっそ双子なんてどうかしら? アデリーと私の夫の顔が同じだなんて、とっても面白いわ!」


 とてもいいアイデアだと思うのに、彼女はあまり気乗りしない様子だった。


「シャル様。お相手の方にも心があるのです。自分たちの人生を楽しくさせるために弄ぶような真似はお止め下さい」

「大丈夫よ、相手にもそれ相応の利益は与えるわ。それでいいじゃない」

「…………」


 アデリーは少しお堅いところがある。そんな生真面目なところも気に入っているのだけれど、今日はなんだかいつもと様子が違うような気がした。

 でも、きっと大丈夫。彼女に怒りや悲しみの色はない。


 私は昔から、どうしてか人の感情が色のように見える。


 それを知っているのは両親だけで、幼いころに何度も医者にかかったことがある。最終的に怪しげな錬金術師に、ごくまれに私のような不思議な感覚を備えて生まれる者がいるらしいと教えてもらい、呪いや病ではないという結論に落ち着いた。

 実際他人の気持ちがよくわかるという以外に実害はなく、むしろこれまで大いにこの特技を利用してきた。


「私、本当にシャル様の事が好きですわ」


 アデリーがポツリと呟いた。


「明るくて華やかで、時々ちょっと自分勝手で。……どこかあの子に似ているんです。そんな貴方が純粋に好いてくれること、本当に嬉しかった」

「あの子……?」


 彼女は私の疑問には答えず、まっすぐに私の目を見返した。


「以前、シャル様は不要なドレスを捨てるとおっしゃいましたね」

「ええ。……そういえばあの時、どうしてあんな質問をしたの? 不要なドレスを処分すると答えたことなんて、クロエとはなんの関係もないじゃない」


 あの時の事を、後で疑問に思ったのです。

 どうしてアデリーはそんなこと聞いたのか。


「貴方のものの考えたか、捉え方を知りたかったのです」


 アデリーの言葉に、なんだかゾクリとしたものを感じた。……大丈夫、彼女に『他人の感情を色としてみる』なんて特別な能力はないはず。だから平然とした顔をしていれば、何故かアデリーの様子に怖さを感じる、なんて考えている事はばれないはず。


「シャル様は、他の令嬢たちが何故趣味と違ったドレスを注文してしまった場合、それでもなんとか着ようとするのかわかりますか?」

「聞いた話によると、一般的な貴族にとっては安くない買い物らしいわね」

「もちろんそれも理由の一つでしょう」


 ですがそれだけではありません、とアデリーは続けた。


「縫い目の一針一針、レースやビーズの取りつけまで、気の遠くなるような手作業と時間がかけられているのです。それを安易に気に入らないからと処分するだなんて、私には出来ません」

「…………」

「目に見えるものだけが、全てではありませんよ」


 大好きなアデリーだけど、その発言には賛成できない。だって私には人の感情が見えるもの。わざわざ見えていないものをひっくり返したりなんかしなくても、大抵の人のことは全部わかっちゃうの。


「クロエ様のこともそうです。貴方には見えない、彼女なりの想いや環境があることを忘れてはいけません。貴方はその場の表面的な心の動きを読み取ることには不思議なほどたけていますが、そのさらに奥にある気持ちに関してはなにもわかっていないのです」

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