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「すべて、殿下の予測どおりでしたね」
突然の強襲に、こうも完璧に対応することが出来たのは理由があります。
第二王子殿下は、シャル様がなんらかの接触を図ってくる可能性が高いと考えていたようです。こと危機管理において殿下を疑ったことはありませんでしたが、今回ばかりはにわかに信じ難いと考えておりました。
しかし結果は、ごらんのとおりです。
「当然だ! ……と、いいたいところだがな。警備が厳重な中心街を離れる今日が一番怪しいとは思っていたが、あの日から君の周辺は全部警備を固めていた。それに引っかかったのが今日だっただけだ」
「ですが、本当にシャル様の命令なのでしょうか?」
たった今足元に転がっている者の他にも、馬車の外では襲撃者たちが捕らえられているようでした。もしかしたらただの偶然で、単なる物取りや強盗かもしれない。わずかな可能性に賭けたい気持ちがありました。
「残念だが、間違いなさそうだ。金目当てなら、君を誘拐するより前を走らせていた荷馬車を狙った方が安全で効率的だし、こんな昼日中に人を襲うなんてリスクが高すぎる。それこそ目撃されてももみ消せるような後ろ盾がいないかぎり」
殿下の機転で助かった……といいたいところですが、安易に喜んではいられる状況ではなさそうです。
「……もしそうなら、シャル様は私をどうされるつもりだったのでしょう」
「襲撃者は君を無傷で捕らえるつもりだったのだろう。馬車に押し入ってきた男は君しかいないと思って武器を持っていなかった。よくて強引に話し合い、悪ければ誘拐を企んでいたのかも……」
「まさかそんな!」
しかし絶対にありえないかと聞かれれば、少し返答に困ります。シャル様はなぜか私をそばにおくことに執着されていました。どうしてそこまでこだわっていらっしゃるのか、理解できないほどに。
「今回は運よく阻止できたが、本来守る側ってのはものすごく不利なんだよ。相手がなりふりかまわず来ているときは、尚更。帰国したとしても、彼女ほどの財力と権力があれば何があるかわからない。不安にさせるようなことを言いたくないが、今後も身辺には気をつけて欲しい」
「…………」
考え込んでいる姿が落ち込んでいるように見えたのか、殿下が勇気づけるように私の手を握りました。
「心配するな。君は俺の部下だ、必ず全力で守る」
「……ありがとうございます」
「信じられないか?」
「いえ。おっしゃるとおり、第二王子殿下なら私一人を守るなど容易いことでしょう」
私は本心からそう思っています。この方が本気で私を守って下さるというのなら、きっとその約束は守られるのでしょう。
……しかし、それでは駄目なのです。
「お気持ちは嬉しいですが、私一人に全力を尽くしてはいけません。殿下だってわかっているはずです。貴方の力はもっと多くの人を救うべきだと」
「君を見捨てて? そんなの無理だ」
困ったことに、今でもシャル様が国賓であることにはかわりありません。
もしシャル様を公に非難するとなれば、国家間の問題になりかねません。きっかけは些細な事でも、どんな大きな火種になるかわからないのが政治というものです。
なら、方法は一つです。
「殿下。考えたのですが、方法は一つしかないように思います」
「なんだよ、自分が犠牲になるってのは絶対に許さないからな!」
「そうではありません。ただ……」
国際問題になるかもしれないというのに、それでも配下の私を案じてくださる殿下に苦笑しました。
「今度こそ、本当にシャル様とお友達になってみようかと思いまして」