ー3ー
お茶会の騒ぎの後、シャルロット様は一旦王宮に滞在されました。
そして翌朝、王宮に呼ばれた時からうすうす覚悟はしていたのです。
「アデライド令嬢、本当にすまない」
小柄で穏やかそうな顔立ちのタリース国王陛下が、疲れ果てた表情で謝罪されました。素朴でほんわり和ませてくれる雰囲気は、とてもあの方の実の父には見えません。
「言いにくいことだが、実は……」
「問題ありません。昨日のうちに、シャルロット様に滞在していただく準備は済ませております」
まあしばらく暮らせば、満足して王宮に戻りたいというかもしれません。いつでも受け入れができるよう、準備だけはお願いしておきます。
「そなたには、苦労ばかりかけるな」
その隣にいらっしゃる王妃様が、もったいないお言葉をかけてくださいました。大柄なうえ迫力ある美人で、こちらは間違いようがないほどのそっくり親子です。ちなみに苦労というのは、二番目のお子様の件でしょうか。
「陛下の忠実な家臣として、当然のことでございます」
我慢は得意な方です。それに私自身は、彼女が滞在することに不満はありません。そんなことで侯爵令嬢の暴挙を許していただけるのならお安い御用でした。
「本当に欲がないな。だか、そういうわけにはいかない。この埋め合わせはどんなことでもしよう」
「強いて言うのでしたら、第二王子殿下がお戻りになった際は一緒に謝って下さいませ」
「…………。もう一度だけシャルロット令嬢を説得してみようかな」
どれだけ息子が怖いのですか、陛下。
◇
シャルロット様は、私の屋敷に到着すると感嘆の声をあげました。
「まあ。なんて素敵なお屋敷なのかしら!」
「公爵令嬢であらせられるシャルロット様を、お迎え出来るような住まいでは」
ないので今すぐ帰っていただけないでしょうか……とはもちろん、言えるわけがありません。あれほどくどくどしく忠告していたのに、こんなことがバレたらどれほど面倒くさ……悲しまれるでしょう。その光景が容易に想像できて、気持ちが重くなりました。
第二王子は『王族命令』と申しましたが、同じ王族の、さらに身分の高い方、しかも二人に頼まれたのです。そうでなくとも、国益を考えれば選択の余地はありません。とにかく失礼のないようにと顔を引き締めると、シャルロット様がくすくすと楽しそうな笑い声をあげました。
「そんな厳しいお顔をなさらないで。私、今とっても嬉しいのですから。まさか、こんなチャンスがくるなんて」
「チャンス?」
シャルロット様はにこりと微笑んでうなずきました。咲き誇る花々を背に、その中でも一番輝いています。本当に、なんてお可愛らしい。
「私、ずっとアデライド様と仲良くなりたかったのですわ」