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ー37ー

 数日後。


 私は王都の中心部を出発し、目的地を目指して馬車に揺られておりました。

 馬車は第二王子殿下よりお借りしたもので、一見控えめな外観ながら上質な素材で出来ております。乗り心地も素晴らしく、殿下の命令で窓のカーテンは閉ざしたままですが、窓の外は晴天にも恵まれているようです。そうしてなにもかも順調だというのに、私はどこかすっきりしない気持ちを抱えておりました。


「……これで良かったのでしょうか」


 あの日から、シャル様とはお会いしていません。それどころか手紙や伝言さえ伝わらないように、殿下が手を回しているようでした。

 一緒にシャル様の国に帰ることは出来ませんが、彼女自身を嫌いになったわけではありません。こんな風に拒絶され、どれほど傷つき悲しんでいるかを想像すると気持ちが暗くなりました。


 殿下は自業自得だと突き放しましたが、私は自分に責任がまったくないとは思えませんでした。なぜなら私は彼女の誘いに、少し心が揺れたのです。シャル様は人の気持ちにとても敏感な方なので、それを感じ取ったからこそあんな強引な手段に出たのではないかと思えてしまうのでした。


 ――いいえ、やはりこれで良かったのです。


 私はそう自分を納得させました。国賓であるシャル様を無事帰国させること、それが我が国にとって一番大切な事なのです。もし接触を持つことによって、さらに事態が悪化することだけは避けなければなりません。

 私も殿下も、無事残りの数日が過ぎることを願っています。なのでこうしてシャル様のいらっしゃる王都の中心地から離れることは、少し気が楽になるのでした。


 ガタガタガタ……。


 メインストリートから外れるにしたがって、馬車の揺れがわずかに大きくなっていきました。

 とにかく今日は、以前から準備していた大切な行事があるのです。気持ちを切り替えそちらの方に集中しなくてはいけません。このところ何かと忙しかったので、久しぶりの参加です。お茶会や舞踏会はあまり気乗りしない私ですが、今日の予定だけは別でした。


 ガタガタガタ……ガタッ……。


 目的地が近くなったせいか、なんだか道が悪くなっていきます。気のせいか普段よりも余計に揺れているような気がして不思議に思っていると、やがて馬車が止まって御者が声をかけてきました。どうやら道ではなく馬車本体に、なにかの不具合が起きたようでした。

 なんとなく、不安な気持ちが広がっていきました。……いえ、きっとこれはただの偶然。昨日も雨が降りましたので、いつもより道が悪くなってしまっていたのでしょう。


 ――その時です。


 馬のいななきと共に、数人の者たちに取り囲まれる気配を感じました。

 それは馬車を止めてからあっという間の出来事でした。


「うわあ、助けてくれ!」


 刃物を抜くような音のあと、御者の叫び声と一目散に逃げ去っていく足音が聞こえました。後には、私が乗っている無防備な馬車がその場に取り残されているだけです。

 こんなタイミングで強盗に襲われるとはなんという運の悪さ。もしくは、運ではないのでしょうか。


「怪我をしたくなければ、余計な抵抗をするなよお嬢さん」


 男の声が聞こえ、息を飲みました。

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