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ー31ー

 青い顔の伝令はなおも続けました。


「王子殿下はまっすぐこちらを目指しております! 可能でしたら本日はこのままお開きにして、すぐさま解散された方がよろしいかと……うわあっ!」


 後ろからひょいと手が伸びて、首根っこを掴まれた伝令が後ろにひきずられました。空いた隙間からひょいと顔を覗かせたのは、この数年間で飽きるほどよく見た顔でした。

 高い鼻梁に自信がにじみ出たように口角が上がった唇。意志の強そうな太い眉はともすれば野暮ったくなりそうですが、奇跡のようにバランスよく並んだ目鼻立ちが印象を打ち消しておりました。その傲慢不遜を絵にかいたような顔が、私と目があった瞬間だけふっと優しく緩みました。


「アデリー、帰ったぞ」


 その瞬間、不覚にもほっと安堵してしまいました。なぜかその瞬間、彼ならこの場の全員を救ってくれるのではないかと、救世主に出会ったような気持ちになってしまったのです。


「おかえり……なさいませ」


 次に彼は残りの全員の顔をぐるりと眺め……

 ――それから、さも鬱陶しそうに顔を歪めました。


「おい、全員なんて辛気臭い顔をしてるんだ? まるで思い切りクソを踏みつけた直後みてえじゃねえか」


 ……私がどうかしておりました。

 このクソ野郎の顔を見て安心するなど、絶対にありえません。


「アレクサンドル王子……!」


 シャル様の表情に、初めて焦りのようなものが浮かびました。


「まだ、あと数日は戻らないはずでは」


 ピリピリとした緊張感を放つシャル様とは対照的に、第二王子殿下はけろりとして上機嫌です。むしろ彼女の反応を楽しんでいるのではないかと疑えるほどに。


「そのつもりだったが急に気が変わった」

「気が変わった? 王族の移動といえばそれは慎重に日程を組み、滅多なことでは変えられないはず。それを、気が変わったですって……!?」


 愕然とするシャル様に、心の中で深く同意しました。

 おっしゃる通り、こちらは何日もかけて計画し、何一つ不足がないように準備し、周辺貴族に声を掛けてまで抜かりないように手配しているのです。だというのにこの方は、自分の気分一つで全てをひっくり返してしまわれるのです。


「何か言いたそうだな、アデライド」

「いえ、別に」


 言ったって変わらないのですから、特に言いたいことはございません。


「一体なんの御用ですの。いくら王子殿下とはいえ、突然乱入されるなんてあんまりですわ」


 なんとか気持ちを立て直したらしいシャル様が、あえぐように呟きました。


「はっ! 俺の可愛い部下を勝手に連れ去ろうとするほうが、ずっとあんまりじゃないか」

「……もう、お聞きになってましたの」

「いいか、君にアデライドは渡さない。絶対にだ」


 二人の間でバチリと火花が散ったように感じました。

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