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厳しい顔つきで断固と拒否したのは、スーレイロル公爵家当主。……私のお祖父様です。
「アデライドは私の大切な孫だ。それにいくらしっかりしているようでも、まだ子どもだ」
スーレイロル家でお世話になることが決まって以来、何くれとなく世話を焼いて下さったのは公爵夫人……お祖母様でした。ですから、たとえ方便でもお祖父様から『大切な孫』などという言葉を聞くとは思いませんでした。
「少なくとも成人するまでは、私の目の届かない所にやるわけにはいかない」
「そうですよ! この子は私たちの娘の忘れ形見なのです。一人暮らしを許したのも苦渋の決断だったというのに、外国だなんて!」
堪えきれないとでもいうように、お祖母様も熱弁を奮う。なんだか胸がジワリとして、泣きたいような嬉しいような気持ちになった。
「私もアデライド嬢を手放すつもりはない」
王妃様がゆったりとした声で続いた。
「彼女は優秀なだけでなく、多くの者たちの信頼を得ている。シャルロット嬢の提案する優秀な人材とやらを百人派遣されたとしても、とても代わりを務めることは出来まい」
そういって王妃様は私ににこりと微笑みかけてくださいました。過大すぎる評価だとは思いますが、それだけの言葉で引き留めていただけたことが嬉しくて、私も口元が緩みます。
「わ、私もアデライド様と仕事をさせていただいたことがありますが、さすがの一言でありました!」
「そうです、あのへそ曲がりな……いえ、気難しい第二王子殿下を手懐けるなど、常人には出来ません! 千人、いや万人の代わりがこようと同じことは出来ませんとも!!」
同席していた家臣たちも、唾を飛ばす勢いで引き留めてくれました。……若干、評価の内容が気になるところではありますが。
「……というわけらしいよ、シャルロット嬢」
国王陛下が穏やかに口を開きました。
「ちなみに僕もまったくの同意見だ。アデライド嬢を引き渡さないなら、全ての取引から手を引くと言われても変わらない。彼女はもう僕たちにとって、なくてはならない人だからね」
そう言って、目が合った私にパチリとウインクします。
「国王陛下……。皆さん……」
喉がつまってそれ以上言葉が出なくなりました。
もしかして私は、自分で思っていたほど要らない人間ではないのかもしれません。……いいえ、ここまで言っていただいてなお、自分を卑下するなど皆さんに対する冒涜です。
きっと、今日までの頑張りは無駄ではなかった。
私はようやく、自分はもう不要な人間ではないのだと思えました。お前などいらないと、今も耳に残る心無い言葉の数々は、すでに過去のものになっていたのだと気がついたのです。