ー25ー
「なにか誤解がないかしら? そりゃあ貴方の有能さは好ましいと思っているけど。それはあくまで付随する魅力の一つであって、一緒にいたいという理由ではないのよ」
シャル様の言葉は理解不能で、のみ込むまでに少し時間がかかりそうでした。
「……私の持つ情報が目的では、ない?」
「もちろんよ。貴方が言いたくないことを、無理に言わせるつもりはないわ」
「じゃあ、なぜ私を近くに置こうとするのですか。意味がわかりません」
本気で真意がわからないと思っていると、シャル様はおかしそうな笑い声をあげました。
「貴方自身が気に入ったからよ! それ以外に理由なんて必要かしら」
……私を、気に入ってくれる?
本気でそんなことを思う人がこの世にいるのでしょうか。
信じられない気持ちですが、とにかく私から情報を奪おうとしているわけではないのだとわかり、肩の力が抜けました。
「で、返事はどうなの?」
シャル様はにこりと微笑み、片手を差し出しました。
この手を掴んでも、国王陛下たちに対する裏切りにはならないのでしょうか。もしもそうなら、私は……。
胸に、この数日間のさまざまな出来事が思い返されました。
お茶会の騒動からはじまり、王家からの頼み事を受け、それから始まったシャル様との生活。お友達ができるという前代未聞の大事件に、ララたちに慌てて相談をしたこと。だけどシャル様と仲良くなって、それから一緒にパフェを食べたり、他にもたくさん、色々な事が起きました。
「……一つ、条件がございます」
シャル様はこころなしか緊張した様子で次の言葉を待っています。
「クロエ様にきちんと謝罪して下さい。シャル様は彼女を利用したことを、反省するべきです」
「えー。だけどクロエだって私に……」
じっと見つめると、シャル様は口をすぼめシュンとしました。
「うっ……わかったわ。必ず謝る」
「はい、それならば。私でよろしければ、残りの滞在期間も仲良くして下さいませ」
目まぐるしい日々の連続でしたが、それらも深い友情を手に入れるために必要だったのかもしれません。そう思うと自然と口元が緩みました。これが物語なら、こんな最後も悪くないなんて思いながら。
私は、差し出された手をしっかりと握り返しました。
――しかし、私はやはりわかっていませんでした。
「いやだわ、アデリー。『ずっと一緒』と言ったじゃない」
「え?」
「心配しないで。移動の準備も、移住する手配も、ぜーんぶ私がしてあげるから」
……ええと……。
一体なんのお話でしょうか?
「決めたの、貴方を私の国に連れて帰るわ。これからはずっと一緒よ、アデリー!」
まったく、わかっていなかったのです。
シャル様の『ずっと一緒』が、どれほど本気のものであるかを。