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突然の宣言に、私は絶句しました。
特別な雰囲気を持つ方だとは思っていました。
なにもかも完璧な方だとは思っていたのですが。
「ふふっ、そんな顔しないで。私は真面目よ」
真面目な方が怖いのですが。
「警戒しなくても、別に教祖になろうっていうわけじゃないのよ」
シャル様はうっとりと夢見るような表情で続けました。
「そうではなくて突出した何かを持った人間を、神と呼ぶことがあるでしょう? 類まれなファッションセンスで一時代を築いたヘルモルト子爵夫人や、洗練された手紙の書き方で評判になったリンデマン伯爵夫人。……それに社交界を裏で牛耳っていたとされる、マルシャル夫人」
「つまり、歴史に名を遺すような人物になりたいということでしょうか」
「そうよ。それもこれまでになく偉大で、素晴らしい存在にね!」
なるほど、後世に名を遺すような功績を残した方々を尊敬し、時に神と呼び称える。そのような偉大な人物になりたいという意味なら理解できます。
「私は完璧な淑女、ゆくゆくは貴婦人として名前を残したい。その為に私が必要なものが、貴方にはわかるかしら?」
突然の問いかけに、頭を悩ませる。
シャル様という存在を、より高みに押し上げるのに必要なもの。
彼女を引き立たせ、人々に鮮烈に印象づけるためにあるべきものといえば……。
「……敵、ですか?」
やはり手っ取り早いのは対立する悪役を設定することだろう。
しかしそれなら私にその汚れ役を引き受けて欲しいとでもいうのだろうか。それはこれまで築いてきた信頼と、第二王子殿下の名誉のためにもお断りしたい。
「残念。思考の方向性は間違っていないけれど、もっと大切なものがあるの」
「もっと大切な……? 考えつきません」
「信奉者よ!」
シャル様はこれまでで一番熱く語った。
「私を近くで眺め、驚き、称える存在が必要なの! どんな偉業を達成したって、それを広く宣伝してくれる存在がいなくては意味が無いわ」
「それを私にやれ、と?」
「ええ。ここ数日観察してわかったの。貴方はアドリブの会話には弱いけど、明確な方向性が決まった仕事ならば別人のように優秀だわ。貴方ならきっと上手くやってくれると確信してる」
正直に申し上げますと、私にもそんな予感はあります。
『シャル様の功績を称え、周囲に伝え聞かせる』という目的を設定してもらえたら、その通りの効果が出るよう実行と軌道修正を繰り返すだけですから。
「それに私、わかったの」
「なにがですか?」
「無理せず生きているつもりだったわ。だけど洗いざらい喋った今、こんなに胸がすっきりするとは思わなかった。こんなにも全てをさらけ出せたのは初めてよ」
シャル様は私の両手を握り、どんなことでもうんと頷いてしまいそうな魅力的な笑みを浮かべました。
「アデリー、私には貴方が必要だわ」