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ー22ー

 前言撤回です。

 異常者、というのは良い意味で使う言葉ではありませんから。しかしとにかく、それほど人並み外れているという意味なのです。



 ふいに、とある地域に滞在した時の事を思い出しました。

 そこでは少しでも天に近い屋根を持つ者から救われていくのだ、と信じられておりました。ですから住人たちは「この家はあの家よりも柱一本ぶん屋根が高い」とか、「この家は材料を惜しんだからわずかに他の家より低い」などということに血眼になっておりました。

 しかし特別にその町の一番高い場所にある釣り鐘台へ案内された時、私はあまりに見える景色が異なることに愕然としました。地上の屋根のわずかな高さの違いなど、遥かな高みからは違いが無かったのです。



 それと同じようにシャル様の卓越したコミュニケーション能力は、逸脱した社会不適合も『ちょっととっつきにくい人』と同じくらいにしか感じていなかったのでしょう。でなければ、彼女はもっとうまくやったはずです。

 しかし彼女があまりにも自然に私と仲良くなったため、かえってクロエ様を怒らせた不自然さに気がつくことが出来たのでした。……自分で指摘しておいて、少し辛いですが。


「貴方はわざと令嬢を挑発し、彼女が無礼を働くように誘導した。そうですよね?」


 証拠などありません。無礼だ、言いがかりだと反論されればそれまでです。ですが私の読みでは、そうはならないはず。

 彼女はお茶会の事件が起きる前から、私に興味をもっていたとおっしゃいました。そして実際、我が家に来てからはほとんど私と過ごすことに時間を割いて下さっていました。他の令嬢達からの誘いを断るほど、それはもう熱心に。

 ……となれば彼女の狙いは、やはり私。

 その私が疑惑を持ってしまったのなら、今さら隠す必要はないのです。


「ふっ……あっははは! この私を異常だなんて言ったのは、アデリーがはじめてよ」

「…………」

「まさか気づかれるなんて。やはり、貴方は一筋縄ではいかないわ」


 シャル様の瞳がスッと細まりました。


「ごく稀に、私に対して違和感を持つ人はいるわ。だけどすぐに否定するの、『そんな風に感じる自分がどうかしてる。おかしいのは自分の方だ』って」


 確かにクロエ様もそうでした。嫉妬した自分の方が悪いと反省し、罪悪感にさいなまれていたのです。

 本当に、なんて恐ろしい才能なのでしょう。

 そしてそんな彼女がわたしに近づく理由は一体なんなのでしょうか。タリース国に統合されたとはいえ、元王太子妃候補者。公爵の孫娘。それとも数々の権限を任されている第二王子殿下の側近としての利用価値でしょうか。

 しかしシャル様の目的がなんであったとしても、関係のないクロエ様を陥れて処罰するなど見過ごせません。


「ねえ、アデリー」


 まるで天気の話をするような気安で、いつもと変わらない笑顔を向けてくれました。

 緊張のあまり、背中にジワリと汗を感じます。

 シャル様はくもりのない真っすぐな視線でおっしゃいました。


「私は神様になりたいの」


 …………。

 異常者は前言撤回という言葉は、前言撤回した方がいいかもしれません。


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